本日より煙草値上げ

僕は喫煙者だけど、昨年くらいから手巻きとパイプにシフト。
手巻きは「面倒じゃないの」と言われれば面倒だけど、充足感が大きいので本数は減ります。1本辺りの巻きが細いので、無駄も少ないです。
パイプは「面倒じゃないの」と言われれば面倒だけど、3g=紙巻き煙草3本分で2時間は保つ上に、紙巻き煙草のように「フィルター+3cmくらいまでの煙草は吸わずに捨てる」というロスがなく、案外長持ちです。通常、40g入りで900円前後のものを嗜んでいますが、これが値上げで1200円くらいになりました。紙巻き煙草1箱(20g相当)300円→410円として考えると40gで二箱分900円、1箱にして元々450円だったのが600円に上がるわけで、紙巻き煙草よりも上がりはデカイんだけど、全体の2/3吸って捨ててしまう紙巻き煙草よりは無駄が少ない。加えて、そもそも毎日2時間吸って2週間分でなくなるというのがパイプ煙草1パウチ40g(紙巻き煙草2箱)の消費ペースだ……とかなんとかいう話は、これまで散々書いてきたので置くとして。


「煙草税の増税は喫煙者への制裁だ! ざまみろ!」
と言って喜んでる非喫煙者の方がいたりするので、ちょっと考えてみた。
煙草を吸わない人は余り気付かないかもしれないけど、「煙草は地元で買いましょう」というスローガンがある。これは喫煙者は地元愛を育め、ということでは決してなくてw、煙草の売り上げによって得られる税収は、その煙草が売れた地域の自治体の収入になるため。
日本の地方自治体の多くは、地域からの様々な税収と国からの支援で成り立っており、その経営というか運営は赤字気味の自治体が多い。
国からの支援、例えば地方交付金の類や、ガソリン税から得られた税収から道路維持などのメンテナンスコストに当てられる費用などが含まれてくるわけなのだが、自治体の経営が困窮してくると国に依存しなければならない要素が増え、中央の都合に対してNOと言えなくなる。NOと言えば、国からの給付金の分け前が激減されたり、ストップされたりしてしまうためだ。
民主政権になってからの宮崎県、長崎県など、先の衆院選参院選で野党・自民党が勝利した地域などでは、このへんの不均等采配がかなり露骨になっている、というのはあまり報道されない話。


つまりは、地方自治体は自前の税収が少なくなるほど、国の言いなりにならざるを得なくなる、ということだ。
また、自前の税収があれば、その費用の使い途を個々の自治体が必要に応じて自ら割り当てることができるが、紐付きになればそうした自発的な予算の使い途は制限されてしまう。


そういうことを踏まえた上で、煙草税というのは基本的に地方自治体が得る、割と大きな税収だった。
その税金を支払っているのは喫煙者なわけで、非喫煙者は煙草税という【余計な税金】は負担せずに済んで来たわけだ。


今回、煙草税の大幅な増税に対する期待は2通りあった。

  1. 喫煙者は増税しても吸うだろうから、税収が上がる
  2. 増税によって喫煙者が減るから、健康保険の支出が減る

だがこれにはジレンマがあるのだった。


(1)増税を期待するなら、上げ幅が大きすぎてはいけない。急激な増税は喫煙者の禁煙、節煙を促進するので、結果的に税収は増えない。場合によっては相対的に減る。
煙草税増税が「税収不足を補うため」のものだとするなら、これは金の卵を産む鶏の腹を割いてしまうようなものに他ならない。結果的に税収は増えないか、減る。
税収増を目的としているなら、それは果たされていないし逆効果だ。


(2)喫煙者を減らす健康促進を目的にしているなら、そもそも煙草を禁止してしまえばいい話。これはアルコール・酒類に対しても同じことが言えるし、「それは不健康だ」と定義できるあらゆるものを禁止することで、健康促進を図ることの口実となる。
酒、煙草に限った話ではなくて、健康促進を口実とするなら例えばイクラ筋子数の子、たらこなどの魚卵類などなど、食べ過ぎると身体によくない嗜好品は少なくない。「それは極端に多く摂取した場合の話で、少量なら問題ない」という言い訳は酒や煙草にも通じるもので、健康ファシズムに忠実に従うなら魚卵類もアウトになる。*1
怖いのは「アレが駄目ならコレも駄目」という前例になってしまう点で、先に規制されたものの被害者が、新たに増える規制品が例外になることに対して嫌悪感を抱くようになるという……。


それはさておき、煙草税増税で健康保険の支出が減るというのは、実は巧妙なレトリックに隠された嘘ではないかと思うのだった。
だって、「煙草を吸うと身体に悪い」んだとする。身体に悪いってことは早死にするっていうことだ。
現在、日本の健康保険の支出が増大している最大の理由は、高齢者医療の費用負担という点にある。先の後期高齢者医療制度は、その負担を同世代の高齢者同士の資産格差分で埋めていくという考え方でもあったわけなのだが*2、これなどを見てもわかるように医療費・健康保険の負担は「煙草吸って早死にする喫煙者」ではなく、「長生きしている高齢者」に起因するものだ。
長生き=常に健康というわけではない。つまり、非喫煙者が増えて長生きする人が増えるということは、別に国庫からの健康保険支出を削減することには繋がらない。
「死人は飯を食わない」というのは極論だが、飯を食う、生存に費用が嵩むのは生きている人間だ。
喫煙者を減らし、非喫煙者を増やすことは、健康保険支出削減の裏付けには実はなってない。


そして、税収が減り、健康保険支出が増えるわけでもないけど、「煙草税をアテにしていた支出」がなくなるわけでもない。
煙草税の使用用途は自治体によって違う。自治体の規模によっても違うが、税収そのものが減ってしまうということは、予定していた事業ができなくなることになる。
とはいえ、金がないからできません、というわけにはいかない事業というのも多い。例えば学校の耐震工事などの費用はこういった税収から賄われる予定でいた自治体が結構ある。
では、足りない予算はどこから調達するのかというと、結局個々の自治体が独自に別の税金を上げる、新たに別の税金(喫煙者であるかどうかに無関係な)を作るなどして対応していくことになる。


ここが重要で、「喫煙者ざまみろ、増税で苦しめ」「喫煙者ざまみろ、これを機会に禁煙しろ」と喜んでいた非喫煙者の人々は、これまで非喫煙者が負担せずに済んで来た嗜好品としての煙草に掛かっていた税金……に替わる税収を、喫煙・非喫煙に拘わらず、改めて均等に負担するということになる。
喫煙者が禁煙・節煙すればするほど、非喫煙者の新規税負担は増える、ということだ。
じゃあ、税金を払いたくないから喫煙者は増税後も吸い続けろ、と言われたところで、喫煙者の懐事情――嗜好品に避ける可処分所得の枠も決まっているわけで。人によっては他の嗜好品や貯蓄に回す分を喫煙に使う人もいるだろうし、他の嗜好品や貯蓄を取り崩すわけにはいかないから喫煙を制限するという人まで様々。


喫煙者を減らすという目的と引き替えに、それまで喫煙者が余計に負担していた分の税金の不足分を、非喫煙者はおしなべて自分達に回されるということについて、諸手を挙げて歓迎しているということになる。


僕は喫煙者だし酒も飲むけど、もし逆の立場だったら「自分が吸わない、呑まないことで負担せずに済んで来た税金を、彼らが辞めたことによって代わりに負担させられる」ということに素直に、イエスと言えただろか――?




ちなみに煙草税は今回と別に来年も増税されるという計画があるらしい。
より一層喫煙者は減り、非喫煙者の税負担は増える。

もちろん、喫煙者が非喫煙者に鞍替えすることで、一部の税収減分は新たに非喫煙者になった元喫煙者も負担するが、昨今喫煙者が減っていることから考えると、元々吸わない非喫煙者の新規増税分のほうが負担としては大きいんじゃないのかな。



軽自動車税が今の4倍になるという話もある。
これは買い換え需要を普通車にシフトさせようとか、エコカー*3に乗り換えさせようとか、そういう意図もあるのかもしれない。
都心生活者はいいけど、地方生活者はたまらん話。
日常の足が軽からスクーターに替わったら、ビールから発泡酒へ課税引き上げ対象が替わったように、スクーターの取得税が大幅引き上げされたりして。
そうなれば、基本所得が都心生活者より低い*4地方生活者の生活は一層厳しくなる。



なんというか、あちこちから文句は出ていてもなんとかぎりぎりのバランスを保ってきた自民党政権時代と、大なたを振るった結果全体が崩壊しつつある民主党政権時代の税制。
しわ寄せは、諸手を挙げて喜んでいる人が気付かないうちに負わされているようなんだけど、ホントにそれでいいのかな?

*1:魚卵に限った話ではなく、取りすぎると身体に悪いのは分かっちゃいるけど辞められない嗜好品、しかも習慣性があるといえばチョコレート、炭酸飲料、珈琲なども含まれる。珈琲とチョコレートは広義の興奮剤

*2:金持ちの高齢者の余裕資産を貧乏な高齢者の医療費に充てる、という考え方。これだと現役層や若年層が高齢者の医療費を負担せずに済む

*3:軽自動車は元々燃費がよく、高コストなハイブリッドシステムの恩恵を受けにくいので、軽エコカーは開発そのものがあまり進んでいない

*4:生活に必要な支出コストも安いですが