ルール

編集者の仕事というのは、要するに「才能の煌めきが才能の発露のままに無作為に未整理に爆発する様」に対して、順路立て、整理し、番号を付け、ルールを作る、という仕事と言える。
例えば推敲作業における表記統一がそうだし、頁数・折数が定められている文庫本の中に、用意された原稿が全部収まるように四苦八苦する作業もまた同様だ。
243頁だとうまく収まる本なら、本来は243頁を用意したいところだが、文庫本は224頁と型が決まってるのであれば、そこに収まるようにどうにか知恵を絞るのが編集者の仕事だ。
また、セケンとうまく渡り合うとかいう難作業をこなす編集者もいる。
地味でしんどく脚光は浴びない。一緒に組んでる作家からすら不満をぶつける対象にされることだってある。本が売れても脚光を浴びるのは作者だ。*1
どちらかというとくたびれ儲け的な仕事ではあるのだが、余録はあるし冥利に尽きることはある。
「世に出る前の原稿を、最初に読む喜び」であるとか、「原石を磨く喜び」であるとか、「原石を【拾う】喜び」であるとか。
脚光を浴びることよりもおもしろい、という心情は、恐らく脚光を浴びたい人には理解されにくい。でも、編集冥利に尽きる仕事を一度でも経験してしまうと、この総合芸術の監督のような立ち位置、ルールという線を引く作業のおもしろさにやみつきにはなる。
ルールは厳密すぎてはいけないが、曖昧すぎてもいけない。
ルールを意識せずに作業してもらうのが一番いいが、そうして逸脱気味にできあがったものを、今度はルールの中に収められるようなアンカーでなければならない。
無理難題と対峙するのは苦しいが、たぶんこの先もやめられない。




ルールといえば。
「超」怖い話には幾つかのルールがある。
これは前任者が決めた、或いは自然発生的に構築されていって、継承されてきたものだ。


ルール、その一。
実は「超」怖い話で怪談を書いてきた歴代著者のほぼ全てが、【怪談の商業デビューは「超」怖い話から】。初代の安藤氏はもちろん、樋口氏、平山氏、僕、松村君、久田君、などなど。
唯一の例外が渡部君で、彼は恐怖箱デビューのほうが先なのだが、超-1は「超」怖い話の著者発掘のために始まったことを考えれば、あながちルールから大きく逸脱しているわけでもない。
つまりは、よそで手垢が付いていない人の、口切り怪談を「超」怖い話で、といった具合か。


ルール、その二。
「超」怖い話ではエロは御法度。
これは現役時代の先代によって宣言された。
「弩」怖い話 螺旋怪談と「弩」怖い話3、「極」怖い話などに収められたシモの怪談が「超」怖い話本体に収録されていない理由はこれによる。
そのお陰で、「弩」怖い話「極」怖い話は本家「超」怖い話との差別化に成功したと言えなくもない。


ルール、その三。
「超」怖い話、と冠したシリーズを書けるのは、「超」怖い話本体に書いている著者に限られる。
これも現役時代の先代によって宣言された。
これは先代が卒業した今も厳密に守られていて、現時点で「超」怖い話と冠したシリーズを書く資格があるのは、僕、松村君、久田君、渡部君の四人のみ。今のところ例外はない。


ルール、その四。
新人は僕預かり。
この何年かで、超-1→恐怖箱→単著というスキームが確立しつつあって、超-1→「超」怖い話という直通コースは初年度のみだったわけなのだが、最初の超-1が決着した直後の冬の「超」怖い話以降、「冬は新人と加藤」「夏は平山氏」という分業体制になった。平山氏の卒業後の夏枠は松村君がまるごと担当してくれているが、補充人員として参加している渡部君は冬への参加。超-1から出てきた人々の受け皿となっている恐怖箱も、僕預かりになっている。
これも、そもそもは先代から託されたルール。
今も厳密に守られている。


(中略)


他にもいろいろルールがあるんだけど、きりがないので割愛。
僕の記憶にある「成文化されてないけど自然継承でそうなってるルール」や「俺の目が黒いうちは」と言われてそうなった宣言ルールなど、諸々あと3〜4個はある気がするw
先代の教えを愚直に守るというのが果たして正しいのかどうかはわからない。愚直に守れば進化がないと言われ、違うことを始めれば教えられたこともできないのかと言われ、老舗の二代目三代目の苦労が偲ばれるというか(^^;)


とはいえ、ルールには先代が到達したであろう「ちゃんとした理由」が含まれていることも多く、闇雲に守っているうちに後からちゃんと理由が分かってくるものもある。
未だ見えず、というものも、あと何年か頑張ればわかってくることがあるんだろうかなと思いつつ、守ってみる。
ま、ルールというのは時間を経るほどに「必要に合わせて作られていくもの」なのだなあ、という余談。
いずれ僕が作ったルールが誰かに引き継がれることもあるのでしょう。



まだ終わってないけど、次が終わったら今年もいよいよ「超」怖い話の準備か。
一年が早いよ(´・ω・`)

*1:社員編集だと社内の地位が上がったりはするw