緑式:実現可能性評価指針

脱原発喧しい昨今、いろいろと将来有望な新技術が「今こそ注目を集めるタイミング!」とばかりに登場している。
たまたまこのタイミングで完成したもの、以前からあったけど改めて再注目を集めているもの、発表の機会を窺っていたものなどなどいろいろあり、またそれらを聞くに付け「それがあれば目の前の問題はすぐにでも解決するではないか!」と、妙に浮かれた気分にさせられる。


例えば、「太陽光発電の効率を、これまで15%程度だったものを75%にまで引き上げる」とか。本当にその効率で発電できるのであれば、太陽光発電は価格的に既存の石油、石炭、天然ガス原発、流下式水力などに対抗できるのだが、これは「シミュレーションの結果、そういう効率を出すことが可能と判明した」のであって、実際にそういう装置ができたわけではない。
また、「タービン式発電機(ダイナモ)の磁力抵抗を限りなくゼロにする新技術」がつい先頃「発明された」というニュースもあった。これは磁極の並べ方を少しずつずらすことでトルクを分散するというものだそうで、特許申請中だがそれを応用した製品はまだ登場していない。
僕が期待するメタンハイドレートは推定埋蔵量も多く、技術試験は数年がかりで進行中だが、実際にその採掘技術は確立されていないし、採掘したMHの活用ルートが確立されているわけでもない。


このように世の中にはぬか喜びwさせられる画期的ニュースが多い。
前に民主党永久機関詐欺に引っかかっていたことがあったけど*1、理論的に可能だが実現には多大な金が掛かる……というものを、第一報で判断するのは非常に難しい。
というわけで、どこで判断するかの評価指針を自分なりに持つことが重要と思う。
以下はこれまでにも書き散らしてきたことの個人的な覚え書きとしての、「その話は本当に実現可能か?」を考えるための評価指針。

緑式:実現可能性評価指針(ver.2011/06/12)


1:理論確立
2:ラボでの技術確立
3:生産技術確立
4:事業収支の黒字化
5:政治的障害の解消
6:一般への普及定着


各段階はレベルで表す。
数値が増すほど実現可能性が高い。



1:理論確立

研究室、研究者個人が考案した理論が論文などで発表された段階。
研究論文の実効性について、他の研究者による検証が行われ認められた状態。
多くの「新技術の発表」のうち、その最も初期段階のものがこれ。

2:ラボでの技術確立

レベル1の理論が正しいことを証明するための実効性評価実験が、ラボ=研究室内で成功した段階。
プロトタイプ、試験機、零号機、実験機、などが現実に作られ、正確に理論通りに動いていることが実証できた状態。
完成試料・試作機などが動画や現物の形で発表されることが多いのはこの段階。絵になるので報道されやすく、実現できた=商業化できた、という錯覚を与えやすくもある。
「実用化にはまだまだ時間が掛かる」とされ、投資の呼び込みと期待感滲ませが定番コピー。

3:生産技術確立

研究者や実験者、熟練技術者の手を借りずに量産を自動化できる技術、大量処理を可能とする設備の設計と、その施工に成功した段階。
製品であれば「製造工場が竣工し、稼働を始めた」状態。
つまり、レベル2を受けて、実稼働施設を竣工するだけの投資の呼び込みに成功していると言える。
少なくとも事業性を見出した投資賛同者、最初の冒険的投資者の獲得に成功した状態。

4:事業収支の黒字化

レベル3で竣工した工場施設を稼働させた結果、事業収支が黒字となり事業益が出た段階。
同時に、競合他社、ノックオフ品製造業者が現れ始める段階。
技術的に可能で製品化されたものの収益性が確認されれば、創始者には追加投資が行われ事業が拡大していく。
同時に創始者を追随する競合他社が現れる。
競合他社の出現は非常に重要で、現在定着している多くの既存技術は市場独占についての偏りはあれど、完成品について一社がほぼ全てを掌握している市場は少ない*2

5:政治的障害の解消

レベル4に伴う急速な技術・製品の普及により発生した法的問題を解決できた段階。
普及しつつある技術の利用について、既存法に規制基準がないことによる瑕疵や係争を解決するための法律の制定が求められる状態。
或いは、それらの使用・活用について反対運動が起きており、特定地域や反対勢力の合意/同意/慰撫が必要な状態。
規模の大小は違えど、あらゆる製品や装置、技術には負の側面があり、それらについて問題視する反発勢力の発生は拭えない。
例えば原発なら発電所建設にはリスクがあり地域の合意が不可欠。風力発電はまったくリスクがないように見えて低周波公害リスクもあるわけで、それらに対する補償・賠償の取り決めが求められるようになってくる。
これらの民事・刑事その他に纏わる法的問題を政治的に解消でき、事業が継続できるようにできるといよいよ障壁はなくなる。
ちなみに、光岡自動車などが製造していた「ミニカー*3」は、法的規制・政治的な環境整備によってブームが終息してしまい、不便さが際だった結果、一人用小型コミュータという製品がほぼ消滅してしまった。これは政治的障害の解消に失敗した例として記憶してよいと思う。

6:一般への普及定着

行き渡ったら終わり――ではなく、製品・技術が継続的な需要を生み続ける段階。
また、それらの継続的需要を賄うために競合他社が複数社以上出現した状態。
自動車・造船、建築・建設、小売業など、消費者からの継続的需要が多いもの、価格競争が発生する余地がある程度に収益性が高いものなどは、必ず競合他社が現れて価格競争が始まる。
事業収支の黒字化の次に来るのはレッドオーシャンでの価格競争だが、そうした競争が起こる程度に事業が魅力あるビジネスとして一般化し、テレビ、電話・携帯、パソコンなどの情報機器、エアコン・冷蔵庫などの家電機器のように、「あるのが当たり前の必要不可欠なもの」として社会的に認知された段階に至って、実現可能性評価指針としては最高のレベル6と評価できる。



以上を鑑みると、「画期的な新技術」として世に出るものの鳴かず飛ばず、続報なしで消えるものがどの段階にいるのかをある程度評価する指針が見えてくる。
少なくともレベル3以上でなければ「期待できる新技術」とは言えず、レベル4まで来れば期待しなくても普及は加速する。
レベル5に対する対応は、レベル3くらいの時点で検討を終えて対処を考えていかねば間に合わない。レベル5を飛ばして野放図にレベル6に至ってしまったもののうち、特定一社がリーディングカンパニーとして機能し得ない状態のものについては、影響力を持った業界団体が生まれるか、それができなければ大きすぎる法的規制圧力によってレベル4の収益性が圧縮され、潰えてしまう。
レベル1、2、3は技術的な、レベル4、5、6は経済/経営的な段階の実現可能性の障害を示すものなのだが、「商売度外視」すれば可能なもの(レベル2、3くらいまで)は非常に多いので、ついレベル6まで可能であるかのような錯覚に陥ってしまう。


レベル1や2の時点で鼻息荒く興奮して引っかかってしまう人が、永久機関ビジネスに騙されたりするわけでw、検討と判断はしっかりしましょうね、とか思う。多分に自戒的な意味でw

*1:その後、続報はぱったり。今がチャンスなのにw

*2:ただし、部品についてはこの限りではない。世界でたった一社しかその技術を持たず(維持できず)、その技術について競合することにメリットがあまり大きくない(マーケットが小さい)分野の場合、一社が市場独占というケースは実在するし、部品や素材の世界では珍しくない

*3:一人乗り原付乗用車