怪談のツボの話

つい先日、とある企みに関連して、とある飲み友達(^^;)の編集Sさん&シークレットゲストな方と飲みに行った。この企みについては、後日。
で、そのときに出た話。
僕の書く怪談は何通りかある。
大きく分けると、「心霊落語系」と「弩怖路線」ということになるらしい。
例えば、禍禍、妖弄記、「超」怖い話本編の笑える怪談などの類は心霊落語系に入る。
「弩」怖い話(先のHome Sweet Home)や、新刊「超」怖い話Ζの「方法とその効果について」「ベッド」などが後者「弩怖路線」と見ていい。所謂、「嫌談」の類だ。
その飲み友達の編集Sさんの会社にお邪魔した折、拙書をご覧頂いているという別の編集H、Fさんをご紹介頂いて、ちょっと挨拶なんかしてみた。そのご紹介いただいたお二人の編集さんはいずれも若い女性で、「超」怖い話の話、または「超」怖い話収録の話ではないけれども、心霊落語路線の話などを幾つかしたところ、「物凄く怖い」という反応をされた。「きゃー、きゃー、怖い、きゃー」という反応ともいう(笑)。まあ、怪談著者としては気分がいい(笑)のであるが、同じ話を横で聞いていた飲み友達の編集Sさんは「うーん」と唸った後、「今の話のどこが怖かったのかわからない」と言う。編集F、Hさんのお二人は「えっ! めちゃめちゃ怖いじゃないですか!」と言う。
実はこの編集Sさんのそれと同じ反応を何回か見たことがある。
記憶に強烈に残っているのは禍禍のときで、担当となった編集さんが第一稿を見て(と言っても、最終的にあんまり直してないが(笑))、「カトウさん、どこが怖いのが僕にはわからない……」と凄く悲痛な顔をされたことが思い出される。編集Sさんの反応もそれに近い。
両者の共通点は、まあぶっちゃけて言ってしまうと、「男で、おじさんで、霊感はなくて、幽霊に興味がない」ということだろうか。
昨今の怪談/ホラーは実は女性読者の増加によって切り開かれた部分が大きいと思うのだが、(少女漫画家がホラーコミックを描くようになったあたりからだと思う)現在の怪談/ホラーブームを支えている女性読者と、それを送り出す側で裁量権を持っているオジサン編集者との間で、「恐怖感」という価値観を共有できなくなっているのではないか、と思われる。
だとすると。
怪談とかホラーというのは、「自分が怖いと思ったもの」でないと、その価値を評価することはことのほか難しい。まあ、これは怪談/ホラーに限ったことではないと思うが。
怪談、ホラーを嗜まない人から見たら、怪談は「血塗れ幽霊がうらめしやー」でなければイカン、という先入観があり、そこから離れることができない。
であるが故に、「映像で見せつけられるホラー」であるとか、「原因が解明されるホラー」であるとか、そうした「理解できるもの」が彼らの評価の対象になる。
一方、昨今の怪談(特に実話怪談)というのは、現実の延長線上に置かれながらも「理解不能」であることにその価値が見出されているきらいがある。
怪談慣れした男性読者だけでなく、いやむしろ殖え続けている女性読者は余計にそうした「理解不能」から恐怖を読み取る能力に長けているのではないかとも思う。
編集F、Hさんはお二人とも「文字で読む怪談は、自分の想像の余地があり、さらに想像の余地を越えた予想外のところから恐怖が来るから怖い」と仰っていた。目の前にわかりやすい形で見せられてしまうと、そこから恐怖が広がっていかないので怖くないのだそう。
同じ怪談を読んで頂いて評価が分かれるのは在る意味当然のことである。想像力(というより、連想力?)の個人差はあり得ることだし、好みの違いも当然あろう。
が、「女性」と「おじさん」で、ここまでハッキリとリアクションの差が現れるというのは実に興味深いことだとも思った。
 
ところで、「超」怖い話チームの守護神であり地獄の門番でもあるO女史は、担当編集者にして「超」怖い話の熱烈な読者でもある。(元々、勁文社版のファンだったのだそうで、その引き合わせ、復活は偶然だけでは決してなく、O女史の熱意と尽力に依るところが大きい)
そして、O女史は「若い女性」である。
「超」怖い話竹書房版として復活するときに、「若い女性が部屋に置いてあっても、彼氏が引かない表紙」にしよう、という申し合わせもあった。
現在、夢明さんはポップティーンの連載など若い女性の抱く(そして引き寄せられる)恐怖というジャンルを開拓しておられる。
若い女性と実話怪談はいろいろ符合することが多いようだ。
 
一方、「男でおじさんで霊に興味がなさそうなヒト」というのは、ある意味「怪談のエアポケット」でもあるわけで、そのへんの層を刺激する怪談を書いたら、それはそれでニッチなジャンルが開けるのではないか!? とも思う。
男でおじさんで霊に興味がなさそうなヒトが、こっそり読むような怪談本。
いやー、難しい。
怪談の世界は奥が深い。