怪コレ3追い込み

昨日の話。
とある仕事の打ち合わせでの席上、「そういえば怪コレ買いましたよ」とお言葉を戴く。
ありがとうございます、僕は前書きと後書きしか書いてませんが(笑)
とかなんとか返事をしつつも、「思ってた以上に怖くて」と言われると怪談屋的には気分がいい。
で、「どれが怖かったですか?」と聞くと、
「それが、【吐く】っていう話が凄すぎで、怖くてトラウマになっちゃって、その先に全然進めません」
「吐く」に怖い戴きましたー(笑)
でも、「吐く」は、まだ全然前半のほうです(^^;)
その先の「怖いの苦手そうな人でも入っていける話」をいくつかピックアップして、打ち合わせを中断して(笑)「ここだけでも!」と読むように薦めた。

怪コレは「まずジャブとかでなく、いきなりぶん殴る」というところから入り、さんざん脅しかけておいてから、「兄ちゃん、ワシものう、手荒なことはしたくないんじゃ」と宥和姿勢を見せた後、「この業界もなかなかエエとこもあってのう」としんみりした話を聞かせ、「どや、おもしろいやろ」と笑いも取り、それはそれとして「何がおもろいんじゃ。誰が笑ってええ、ちゅうたんや。ああ?」と、また思い切り背中に膝で蹴りを入れるような、そういう構成になっている。
全体として流れや緩急を付けるようになっており、人によっては「くいたりない」と感じてしまうものもあれば、「ぎづずぎでず……」という話もある。このさじ加減はいつものことながら本当に難しい。読者がどの程度の怪談(恐怖)に耐えられ、どの程度まで踏み込んでこれるのかについて、読者を平均化して基準を作ることも、下限に合わせることも、上限に揃えることもできないからだ。
なるべく高レベルで平均化して、全体の底上げを……というのもひとつの方法だが、せっかく話数本数が入るのだから、ジャンキーさんにもビギナーさんにも、恐怖耐久度の序の口とリミッター振り切りの上限値の両方に、大きく針が振れるような「波のある構成」を選ぶという方法もある。このやり方は「バラエティに富んでいて、バリエーション豊富」とか「初心者からジャンキーまで楽しめる」という評価を狙える一方、ジャンキーさんには「当たりが少ない」と言われてしまったり、「ばらつきが酷い」とシビアに言われてしまったりもする諸刃の剣。全ての読者の好みや恐怖耐久度が均一ではない以上仕方のないところなのだが、ほとほと難しい。

「超」怖い話でもそうだったが、巻数を重ねれば(もしくは一冊の本の中ですら)読者の怪談に対する耐性や「次に何かくるか?」を予測する力は成長してしまう。「超」怖い話Aでも述べた「恐怖のインフレによる恐怖感の麻痺」という奴。これは言い逃れでもなんでもなく(^^;)、ほんとに説明できる類のことなのだが、これはまた何かの前書きか後書きのネタに取っておきたい(笑)


怪コレ3は期せずして続き物全三巻の三冊目という位置づけになったが、当然ながら怪コレ1、怪コレ2と読み進めた人の全てが必ず満足するかと言ったら、断言は出来ない。怪談麻痺の法則は怪コレ3も逃れられないからだ。
一方、怪コレを1から順に買わず、いきなり3から買う人というのもいると思う。「超」怖い話を追ってきたジャンキーの方々は、皆身に覚えがあるはずだ。シリーズを第一巻から順に追い続けてきた人は今や少数派で、ほとんどの人は途中の巻を買い、読み、既刊を漁るという流れで読み集めていったのではないだろうか。
このように、新刊から旧刊に読み遡ることは、しばしば起こりうることなのだ。
こういうことが起こることを常に前提にしなければならないため、過去の「超」怖い話には「複数巻にまたがる続き物(別の話が、次の話の前提になっており、前提を読まなければ次の話が成立しないもの)は避ける」という不文律があった。同じ体験者から複数の話を聞き出した場合でも、「どこから読んでも話が成立する」ように書く、というのは今も守られている。

こうしたことから、「どの巻から読み始めても大丈夫」は常に心がけている。もちろん、順を追って頂いた方がいいし、順番に読んでいけばうまいこと恐怖感が増幅されるように仕立ててあるわけなのだが、それは著者編者の都合というものであって、読者にこちらの都合を押し付けるわけにもいかない。読者はどこから読もうと何巻から読み出そうと、制限は受けないのだ。


また、巻を重ねるごとにマニア向けになっていくというのは、一見進化のように見えて、実は進化ではなく硬化であったりする。先の、「読者が本を手に取る順番を著者が決めることは出来ない」という前提を踏まえるなら、新しい読者に、必ず旧刊から順に読んでもらうという無理をお願いすることは難しい。新しい読者の目に触れるのは、常に最新刊であり、運が良ければそこから既刊を遡って貰えるかも、という程度に考えていなければならない。
そうでなければ、「レベルが上がりまくって、門が狭くなりまくった、初心者(怪談に不慣れな新しい読者)にとって取っつきにく過ぎるもの」になってしまう。そうなれば、新刊から入ってくる新しい読者を獲得することが難しくなる。
既刊の読者が必ず新刊も続けて買うという確約がどこにもない世界である以上、また、新しい読者を常に獲得して市場(購読者層)拡大と維持を考えて行かなければならない。そうなると、新刊は「新しい読者を拒絶しすぎてもいけない」ということになる。既刊までを読み重ねてきた〈貪欲になってしまった読者〉と、そうした読者に引っ張り込まれて(笑)、新たにこの毒に触れようかという〈おっかなびっくりの読者〉のどちらもを、同時に恐がらせるのは難しい。
が、それをなんとかしていきたいわけで。

怪コレ3は、その意味で「超」怖い話・怪コレの基本に忠実に作られていると言っていいかもしれない。初心者を切り捨てず、かつヘヴィな末期的ジャンキーにもウムと言わせる。
なんとかそっち方向を目指した構成を考えつつ進めている。


それにしたってだ。
もう三ヶ月以上も連続で怪談本の編集やってるのに、自分ではほとんど怪談書いてない(笑)
「いやー、怪談書かなくてラッキー(笑)」と言っていいのか、「そろそろ自分の手元に溜まってる怪談吐き出さないと、俺が死ぬ」というフラストレーションが溜まりだしてるというか。


怪コレ3はそろそろ終わりに近いです。
そろそろ魔法の仕込みです。