政権交替談義

ぼちぼち夏の参院選に向けた動きが始まるので、ちょっと覚え書き。


「喧嘩両成敗」とか「大岡裁き」とか「判官贔屓」とか「忠臣蔵」とか、日本人は弱きを助け強きを挫く正義感と、弱いものに加勢して強者の勢力を削ぎ、均衡を保つことをよしとする、という思考的特徴がある。
もちろん、水に落ちた犬を徹底的に叩く*1という思考形態の人もいる。これを同時にやってのけるのが、選挙直前のマスコミで、与党を徹底して叩くことで「強きを掣肘し、水に落として徹底的に叩く*2


「権力は監視されなければいけない」「弱者が監視されてはいけない」というのが報道機関の役目という考え方が根強いのは、元々は明冶時代に政争に敗れて野に下った人々が議会の外から権力者を質すという目的を持って社説中心の新聞を作るようになったから、というあたりに出発点があるらしい。これが、日清・日露・太平洋戦争あたりでは勝ち馬に乗る快感を覚えて政府を煽り*3、太平洋戦争終結後は「走狗に成り下がった反省」としてまたまた反権力に復する*4


さて、参院選の話に戻る。
比例代表制小選挙区制が並立してる今の選挙では、選挙権が二重に行使されることになっていて、票の格差問題なども生んでいるのだが、これはちょっと横に置く。
この選挙権二度行使というのがくせ者で、「じゃあ、小選挙区は与党に、比例代表は野党に。どちらも公平にバランスよく」という善意の平衡感覚で双方に振り分けて投票するという投票行動を取る人が多いらしい。
その結果、小選挙区で落ちた候補が比例代表では復活当選したりすることになるわけで、「有権者に選ばれなかった候補が、党の看板を背負っているというだけでゾンビのように蘇るのは正しいことなのか」という批判もあったりする。*5


この投票行動が参院内での与野党の勢力比を拮抗させる原因になっていて、前回(3年前)の参院選はこの心理によって与野党が大接近(民主党が「大躍進」)した。
今回の参院選は直近の大選挙であった2005年の9.11衆院選における自民党の歴史的大勝利で、衆院自民党が圧倒的な議席数を持っていることから、「衆院与党」とバランスを取るために「参院野党(この場合の受け皿は民主党)」に投票が集まることが予想される。
これは元々衆院自民が大勝したときから言われてきたことで、「バランスを取ろう」という意識が強く働けば働くほど、参院民主「大躍進」の可能性は高まる。


では、衆参でバランスを取った場合どうなるかについて考えて見ると、実はあまりいいことがない。
まず、国会が事実上止まってしまう。

衆院は与党多数派なので、議席数(投票権)も委員会の委員長ポストも議会議長も与党が抑えており、与党及び政府提案の法案はスムーズに通過する。そもそも与党というのは有権者の多数派の支持を得た結果そのポストに収まっているものなので、多数派の代理人である。野党は多数意見を得られなかったから、少数派の代理人ということになる。
民主主義の基本は「意見が紛糾したら多数派の主張を採用する」なので、委員長、議長ポストと議決可能な議席数を持っている多数派が、スムーズに議事進行できるのは正常な状態と言える。


衆院が多数意見多数派の主張を容認して、法案を参院に送る。
ところが参院民主党が大勝した場合、与野党が逆転しているために委員会の委員長ポストも議長ポストも議決権(議席数)も民主党のほうが多い。衆院自民党が通した法案は、参院ですべて差し止められることになる。
参院の開催期間は60日だが、議決権で劣る自民党参院の期日延長ができないので、衆院参院に送った法案は60日間まったく審理されることなく足止めを食らう。
憲法上は衆院が賛成、参院が反対した法案は再度衆院に送られ、衆院で再可決されれば再度の参院の裁可を得なくても成立ということになっている。
しかし、その間60日から90日以上、提出した法案が全てストップしてしまうことになる。
スピードを要するような法案がまったく決まらないことになるわけだ。


スピードを要する法案というのにはいろいろあるので列挙は避けるけれど、例えば今話題の「凸合の済んでいない5000万件+データ未入力の1400万件の年金情報」を処理する特別法の場合、今すぐ手を付けないといけないものであるわけで、その可決にはスピードが要求される*6
もし参院与野党が逆転し、衆参の勢力分布が逆になっていたりすると、衆院でスピード可決されても参院で足止めを食らい、60日以上はその法案は止まったままになってしまう。


これで、衆参両院とも民主党多数派になるなら、別の意味で問題は緩和される。
少なくとも民主党の出す法案は通過する、ということになる「はず」だからだ。
実際には民主党は「民主党(=旧社会党*7自由党*8社民連*9+出世競争で負けてドロップした若手官僚*10、他)」というキメラ構造になっており、党内でも意見集約ができていない法案が多数あるため、政権を取っても55年体制時代の自民党のように「党内抗争」が激化して、やはり国会は空転する*11


そんなわけで、「衆議院自民党が多すぎるから(衆院選で自民が勝ちすぎたから)、お灸を据えるために今回は民主党を勝たせてやろう」という判断は、後で自分達が苦労することになるよ、ということがひとつ。
もちろん、「このまま次の衆院選民主党に勝たせて、いっぺん民主党にやらせてみよう」という人もいるかもしれない。
それが多数派になれば、民主党が政権を取るという日もあるかもしれない。
民主党政権ができて、何かいいことがたくさん起こるのであればそれもありかもしれない。
そう思って、ちょっと民主党のサイトにある政策案を見てきた。


えー、僕としては(ry *12


選挙の夏です。
選挙ヲチャーにとって、これから一ヵ月が見頃です。
参院選だしなあ。また泡沫候補出ねえかな(^^;)
スクラップ&スクラップな。



 

*1:多数派について、少数派の弱まったものを袋だたきにしてますます弱め、最終的に排除し、勝ち馬に乗るということを指した中国の諺

*2:「スキャンダルが追究されるのは与党だけ」の法則w

*3:日露戦争を講和に持ち込みたい政府を「勝ち戦なのに弱腰」となじり、日比谷事件を煽り……以下多すぎるので略

*4:尾崎ゾルゲ事件などを見る限りでは、日本の新聞の戦後以降の反権力性はソ連からの工作だったのではないか、という気がしなくもない。明石大佐にしてやられたことをやり返されてるというか、引き写してるというか。

*5:確かこの批判は小泉前総理が急先鋒で、元々小泉前総理は小選挙区制に最後まで反対していたのだが、移行のために導入された比例制は憲法違反なので速やかに撤廃すべきだと訴え続けている。

*6:実際、安倍政権は問題発覚から3日〜7日程度で対策法案を提出スピード可決している。

*7:労働組合

*8:古い自民党

*9:マチュア市民運動

*10:俺は凄いんだけど、誰も俺の凄さをわからないんだ系。永田メール問題を引き起こした永田元議員とかの系譜。

*11:ここ6年くらいの自民党は、大所帯になったり総裁選で揉めたりしても、体制が一度できると少なくとも法案議決時の党議拘束はきちんと守られてるあたり、原則がきちんと守られていて感心したりする。「数の暴力への対抗=正義の少数派」を錦の御旗にする民主党が、数の暴力を行使する側になったとき、党内に正義の少数派を何種類も抱える民主党が、どうやって党内を結束させるんだろう、とか

*12:新進党が政権を取ったときにおなかいっぱいになったので、いちかばちかはできれば避けていただきたいと……。少なくとも、人口52万人の沖縄を一国二制度制で日本から独立させて、中国人移民を年間3000万人呼ぼうとか、これまで年金を払ってこなかった在日外国人も、この機会に年金受給をして救済しようとか、そういうことを党のサイトに本気で掲げている人たちを推挙するのは、ちょっといかがなものかと……orz