新しいシリーズ(3)
そんなわけで、なかなかシリーズ名が出ませんが(^^;)
「新しいシリーズ」、の前に。
この仕事を始めて今年で22年くらいになるのだが、キャリアの最初の頃から怪談を書いてたわけでもなくて、いちばん最初は攻略本やゲームブックの末端に関わっていた。
最初に手がけた勁文社の「エアーソフトガン大百科2*1」は、イラストレーターの青木邦夫氏(十六夜清心)*2、漫画家の内藤泰弘氏の商業デビュー作でもある。僕はその本では企画編集取材ライティングを一通り経験させていただいたので、これが実質的デビュー作となる。
時代としてはスーパーが付かないファミコンの全盛期でもあって、その頃に在籍していた会社*3では、小学生をターゲットにしたゲーム攻略本の記事執筆や、ゲームブックの編集などの下積みをさせてもらった。
で。
このときホントに勉強になったなー、と今も思っているのが「子供向けと子供だましは違う」ということ。子供と思ってなめて掛かると、逆に子供にバカにされるぞ、と。
例えば、「弱肉強食」という言葉をそのまま使っても子供には理解できない。だからといって、「じゃくにくきょうしょく」と平仮名に開きゃいいってもんでもない。
また、子供の視点=自分の子供時代のつもりでもいけなかったりする、ということ。大人にとってのレトロと、現役の子供にとっての「今」はイコールではない。
僕らの仕事について、やはりその時代に教わったこととして、こんなのがあった。
「何の予備知識もなく、特に情報を得る努力も勉強もせず、読者と同じ目線で情報供給者でいられるのは、読者との年齢差が5歳くらいまでの場合のみ」
というもの。これは、上にも下にも5歳くらいらしい。
20歳の編集者が、何の努力もせずに同時代を共有できるのは、15〜25歳までの10歳分のみ、ということだ。同じアニメ、同じ漫画、同じテレビ番組の話題を振って、同時代を共有できる「世代幅」と言ってもいいかもしれない。
それを過ぎてなお話題を共有しようと思ったら、受動的な情報受信ではなくて能動的な情報獲得に動かなければ難しい。
僕が読者ページの担当をしてたのは20〜28歳くらいまでの頃で、対象読者は下が中学一年(13歳)、上が30代前半くらいまでだった。ずいぶん幅が広かったけど、それでもやっぱり核になってくるというか、努力せずに心理が理解できたのは16〜25歳くらいまでだったように記憶している。
これが小学生ともなると、6〜12歳。完全に受動受信でどうにかできる範囲を超えている。だから難しい。子供向けは。
子供にわかるように噛み砕いて書くことは重要だが、子供扱いされていることが気取られると、子供はへそを曲げる。
子供にはまだ早いようなことを書くと、背伸びしたがる子供は案外喜ぶけれど、その保護者が眉をしかめる。
大人向けの本は、読者自身が金を払うかどうかの決断をするけれど、子供向けの本は、それを読みたい読者とお金を払う保護者はそれぞれ分離している。保護者好みのものが子供の需要に合致するとも限らない。ここも難しい。そのあたりは僕ら自身の子供時代に準えてもピンとくる。
子供が読みたいのは漫画であり、大人が買い与えたいのは名作全集だったりする。読みたい本と読ませたい本の不一致。消費者と支払者の不一致。難しい。ほんとに難しい。
子供向けの怖い本というのは決して目新しい分野ではない。
というよりむしろ、中岡俊哉氏・つのだじろう氏以来、「怖い話」といったら子供向けのものとしてあったように思う。80年代までの怪談本はそうした子供向け怪談が圧倒的に多く、怪談とはまた別種のムー的オカルト本なんかも、やはりどこか子供を怖がらせようという意図が見え隠れしていたように思う。
僕の記憶では80年代=バブル期というのは怪談氷河期で、オイルショック後(バブル前の70年代)とバブルが弾けて世間が不景気になった90年代は、それぞれ怪談の興隆期であったように思う。90年代について言えば、新耳袋(90年)、「超」怖い話(91年)がそれぞれ90年代初頭に現れ、90年代半ば頃には「トイレの花子さん」「学校の怪談」「リンク」などのホラー作品が現れる。Jホラーブームはそこから約10年にわたって一時代を築いた。
この90年代=平成の大不況の期間とホラー/恐怖モノのブームの期間は結構合致しているのだが、ホラー/恐怖は90年代を通じて全般に大人向けのものがヒットしていった。サイコホラー系のものも、子供を怖がらせるものというよりも大人が怖がるようなものだった気がする。
では子供向けのホラー/恐怖は一切語られなかったのかと言えばもちろんそんなことはないわけで、1996年に登場した「幽霊屋敷レストラン*4」は、11年目を迎えた今、35刷を越える超ロングテールとなっており、延べ巻数は50巻、総発売部数は600万部を越える。怪談本ながらアンパンマンや怪傑ゾロリにも決して負けない。新耳袋を子供向けに翻案した「しんみみぶくろ」シリーズも健闘している。
昨日も少し触れたように、恐怖のツボというか「何を怖いと思うのか」は、性別年齢地域経験好みの差によって大きくばらつきが出る。
誰にでも命中する百発百中の万能の恐怖というのは、ありそうだけどないものなのだ。
子供であることからずいぶん遠ざかってしまった大人が、自分の子供時代とは違う時間を生きる今の子供を怖がらそうってのは、やっぱり並大抵の難しさではないのだと思う。先行している諸先輩方もやはりそれぞれに相当苦労されている。
で。
自分の脳内子供に向かって「おまえらこれが怖いんだろう」と構えてみてもしょうがない。そういうときはやっぱり素直に、「こういうのとこういうの。どっちが怖い?」と実際にリサーチするのが一番だと思う。
一カ月くらい前、珍しく本を作った。
http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20071112/1194887670
デニム地の生地でがっちり装幀まで作って、接着剤でいい歳していい気分になってしまったアレ。書き込み可能なパイロット版として作られたアレ。アレは今回の新しいシリーズのためのパイロット版になっていて、試験的に書き下ろされたエピソードをカッチリ製本して取り付け、一筆書き足せるメモ部分を付け、多少ぶん投げられても大丈夫なように頑丈な装幀を施した。先生や保護者に取り上げられてしまったときのことを考えて、「大人の方へ」なんて注意書きも付けた。
そして、地元の小学生(の親御さん)に渡して、回し読みして貰った。
まだ返ってこないので、きっとうちの周辺の小学生の間を行ったり来たりしてるんだと思うorz
でも、「結構怖がって読まれてるらしい」とは聞いた。
手応えが良かったので、その方向でガツンと来る奴を書いた。
そのコンセプトに沿って、子供のための怖い話を書けるチームを組んだ。二児の母として子育ての経験をお持ちの上原尚子さんを筆頭に、久田樹生&松村進吉の「超」怖い話冬班の新人両名、加えて超-1特別選抜の出稽古組3名の計67人がかり*5。
子供のための怖い話という難しいテーマについて、彼らはドカンと来る話を持ち込んできた。
担当編集氏から、
「読んだら人に話したくなるような怖い本」
という基幹コンセプトを伺ったとき、〈それって怖い話の原点だよなー〉と大いに共感した。聞いたら自分の中に留めておけない。誰かに話さずにはいられない。どんどん人から人へ漣のように伝わっていく。
それが、それこそが怖い話ってもんだ。
だから、こうなった。
2008年4月発売予定
怪異伝説ダレカラキイタ?
- 第一巻 タタリの学校
- 第二巻 ノロイの怪魔