メルト祭り

昨日未明よりメルト祭り進行中。
今日になったらもっと凄いことになってた。
歌ってみた人を片っ端から上げるときりがないのだが*1、この祭りの発火点はやはりhalyosyの「男性用キー上げVer.」の公開にあると見ていいだろう。
未聴の人は、↓の順番(時系列順)に巡回するのがいいと思う。

【メルト】
初音ミク(2007年12月07日 20:46:02 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1715919


halyosy(2007年12月12日 03:55:19 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1754685


初音ミクhalyosy(2007年12月12日 17:22:37 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1757584


何しろ結構な人がメルトを歌っているので、誰がいいの誰がうまいのという話になると、いわゆる「ファン同士の罵りあい」みたいなものになりかねない。ここでは祭りの発火点という部分とhalyosyに焦点を絞ってみたい。


メルトそのものは公開初日に5桁に届く勢いで、歴代ミクオリジナル曲の中でも発火が早い曲のうちのひとつだった。また、サムネイルと動画本編中の静止画以外に初音ミクが登場しない。つまり、これまでのミクオリジナル曲の定番テーマであるところの、「初音ミクの心情を代弁するキャラクターソング」とは一線を画していると言っていいかもしれない。
おそらくは初めてのデートで恋に落ちる瞬間を描いた歌(原作者自身が「中二病的」と自嘲しているように、青いラブソングの定番テーマでもあるが)であり、その歌で歌われる少女が初音ミクでなければ成立しない、という制限はない。むしろ初音ミクVocaloid=歌うしかできない=人間ではない、などから、「人間ではない少女・初音ミク」というキャラクターに合うように作られた曲は、どんなに明るい曲調のものであっても、どこか悲劇的あるいは切なさがつきまとう。
メルトは、そうした「初音ミクであるが故の悲劇」がない曲だと言える。その点で、この曲は「初音ミクで歌わせるために作られた曲」ではあるけれど、「初音ミク自身のための曲」ではない。


そうしてできた曲に対して、原曲の主人公(少女)が意識している相手の少年の視点からのアンサーソング*2として、原詩に若干の変更を加えたものが、halyosyの歌う男性Ver.。
このhalyosyのVer.はたった一日で5万越え、一日半で10万越え。公開から約43時間の現時点で13万越え。ミクオリジナル系の歌ってみた系としては未曾有のハイペースで再生数を伸ばしている。


これは「初音ミクという歌唱プログラムの【ための】曲」という枷が外れたことも大きいのかもしれない。ミクオリジナル曲の多くは初音ミクという共通の設定を成立させるためのキーワードを孕んでいる。代表的なものはネギであったり、牛乳であったり、「歌しかない」というニュアンスの崖っぷち感であったりするのだが、メルトにはそういった初音ミクを踏まえるキーワードがない。であるが故に、初音ミクをまったく知らないリスナーにも受け入れやすい部分があるのかもしれない。


ミクオリジナル曲は、実はいい曲になるほど人間には歌いにくい。というより、広い音域を駆使し、難しいテンポ、複雑なメロディラインを持つものが多いため、カラオケ自慢程度では歌いきれない。これについては、以前にも触れた。
これはメルトにも言えることで、「原曲に忠実に歌う」「うまく歌う」ここまでなら、なんとかうまくやれてる歌い手も実際のところ多い。
が、「うまく歌う」だけでは、たぶん伝わらないものっていうのがあるんじゃないかと思う。
メロディをなぞるだけではなくて、歌詞を唱えるだけじゃなくて、感情を揺さぶる。そういうパンチというか激しさというか、そういうものまでぶんぶん振り回せる歌い手というのは、「うまく歌える」中から、さらにほんの一掴みしか見いだされることはない。


そして、それこそがこのメルト祭りのもうひとつのポイント。
祭りの発火点たるhalyosyについて。
メルトを歌ってみたを公開した時点では名前は名乗っていなかった。halyosyという名前が付いたのは、公開から12時間以上経ってから、祭りが始まった後だった。


halyosy森晴義
インディーズボーカルグループ「absorb」のツインボーカルのうちの一人で、インディーズながらすでにデビューを果たしている。
言うなればブレイク前のプロ。

ノブナガごはんリレー(absorb出演回)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1761643


以前から、「ニコニコ動画には、プロも混じってるのでは」という噂があったし、実際のところ業務時間外*3に、現場のプロの技術を駆使して何かやらかしている人がいるのは明らかだった。

【また御社か】業者が作ってみたシリーズ
http://www.nicovideo.jp/tag/%E3%81%BE%E3%81%9F%E5%BE%A1%E7%A4%BE%E3%81%8B?sort=f

音楽製作・2DCG描画・3DCG作成・歌唱、この分野のプロも混じっていてもおかしくないとも言われていた。
が、プロが名前や連絡先を明かしてニコ動に参加するのは宣伝行為に相当することになる。それ以上に、オーディエンスが自由に容赦のないコメントやアンチコメントを叩き付けることができる場で、プロがプロを明かして勝負するのは、危険極まりない。
もし、「プロのくせに大した実力でもない」という印象が大勢を占めるようなことになってしまったら、宣伝どころか墓穴を掘ることにもなりかねない。
プロアマ資格を問わず――と銘打った場に、実際に一角の実績を誇るプロが現れることが滅多にないのは、「プロがアマの機会を奪ってはいけないから」というのは多くの場合は建前で、「仮にもプロがアマに実力で負けるようなことがあってはならないから」というのが本音だと思う。
ニコニコ動画のような場の場合は、それに加えてリスクを考えたら事務所の許可が下りないとか、権利上の問題とか、そういう大人の事情がいろいろあることもあって、「匿名でこっそり」参加している人はいるかもしれないけど、やはりそうそう名前を出せる人は多くないだろう。*4


halyosy自身は自分が「absorbの森晴義である」とは一言も名乗っていない*5halyosyはソロ名義である「森晴義」になる以前に使っていた名前というから、恐らくはコテハンのようなものだろう*6
よく似た他人かもしれない。声質の似ている他人を好んで真似る人もいないではないし。

【山本似之】
http://www.nicovideo.jp/mylist/931800/3592104

前述の
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1761643
には森晴義が「missing」という曲を歌っている様子が収録されているのだが、その歌唱を聴く限り、山本正之と山本似之以上の一致を感じる。
だからここでは敢えておおよその推察に乗って、結論付けたい。


これはプロの犯行


このメルト祭りが続く間は、その他の歌ってみた人達はやりにくかろうと思う。声質の違う歌い手はともかく、少なくともメルトについてはhalyosyと比較されてしまう。
では、そうした人々が萎縮するから、halyosyのようなプロ・ボーカルがニコ動に参加するのはよくない(つまり、前述の「プロはアマの機会を奪うな」というのを正論とした考えw)かというと、んなことはあるまいと思う。
プロだろうがアマだろうが、良いものは良い。よければ再生数は増え、よくなければ見向きもされない。それだけだ。
そして、祭り状態になればなったで、「じゃあ俺も」「じゃあ僕も」「じゃあ私も」と、次々に便乗する人が出てくる。じゃあ、合唱させてみる。じゃあ、PVなんかを。じゃあ、演奏してみる。じゃあ、アレンジ変えてみる。そんな感じで、ひとつの傑作とひとつの歌唱が、次々に他人の才能を励起していく。
そういう才能の連鎖の発火点がアマでなければならない理由はない。プロがプロとして、プロの本気をタダで見せてくれたというのであれば、それはむしろ僕らは大喜びで享受すべきなんじゃないかと思う。





そんなわけで、メルト祭り。
乗っておくといいんじゃないかと思う。イイ曲ですよ。

【メルト】その他のVer.
あにまVer.(2007年12月10日 00:45:13 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1737593


Re:A(+halyosy デュエット版)(2007年12月13日 01:05:12 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1761066


青もふVer.(2007年12月13日 03:15:52 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1761894


ガゼルVer.(2007年12月13日 05:44:29 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1762448


歌和サクラVer.(2007年12月15日 01:46:23 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1776471


メルト-Band Edition〜女性キーVer-(2008年02月16日 23:50:37 投稿)*7
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2348526


メルト-Band Edition〜男性キーVer-(2008年02月16日 23:50:37 投稿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2348512



※公開時系列順。halyosy版はあにま版とRe:A版の間に公開されている。


【2007/12/20 追記】
かにぱん。(V)・∀・(V)による英語版が存在する。ニコニコ動画には公開しないらしい。かにぱん本人のblogでのみ配信中。
やはり相当、高音低音に振り回される曲であるようで、かにぱん。ですら途中発音が怪しくなるほど、であった様子。

メルトについて追記。
この曲は高音の伸びの部分を評価対象にしている人が多いように思う。実際、見せ場になるサビ部分の高音は歌う(歌える)人にとっては、AメロBメロで押さえ付けられていた勢いを全開放する凄く気持ちいいパートなのだと思う。
だけど、この曲の難しさというのはAメロBメロやサビの後のCメロなどにあるんじゃないのかなと思った。サビ以外の低いパートに声を合わせるとサビは高すぎて出ない。サビに出しやすいキーを合わせると、今度はA、Bメロの歌い出し&押さえているパートの部分は低すぎて歌えない。
サビの高音シャウト部分は、ファルセットで声(高音部)を作っているタイプの歌い手では、力強く歌えない。また、全体の声質を揃えるために高めの声を作って歌うと、低音部は声揺れするというか不安定になってしまうか、はっきり発声されなくなって、やはりかなり厳しくなる。
そのへん、2オクターブ近く急上昇していく、まるでF22ラプターのような曲と言える。
そういえば、「サウンド」も低いところを低くきちんと歌わないと、サビのお楽しみ部分wをきちんと楽しめないという、お預け系のメロディラインであったように思う。


(おそらくは)作者が自分で歌って確かめながら曲を書いているのだとして、やはり作者自身の歌いやすいキーとその上下ちょっとのところしか使わないとしたら、曲も平板になりやすいのは合点がいく。
高いところ低いところ、全部を満遍なく使う曲=良い曲で、それを上も下もきっちりと歌いこなせる歌い手がその曲に合致すると、やっぱり凄いことが起こるんだなっていうのを、メルト祭りでは実感した気がする。

*1:ガゼル版、青もふ版、あにま版他、どれも素晴らしいが、敢えてhalyosy版をメインに話を進めたい。

*2:アンサーというのはこの場合正しくないかも知れない。なぜなら、シンクロしている同時進行の心の動きが歌われているからだ。

*3:中には時間内にやってるのもいるかもしれないけどw

*4:JAM Projectなどのように、最初から企画として参加しているのは別だろうけどw

*5:halyosy本人がmixiの日記で名乗っていた」という情報をいただいたので、この点は改訂です。

*6:absorbの結成の経緯が、「ネットを通じて知り合った」であるそうなので、halyosyはまさにコテであった可能性が高い。

*7:すべてオンラインに投稿された、完全に別々に演奏された「弾いてみた」を合わせたセッション。こういうことができる時代になってきたって、凄いな。