みくみく葬送曲

本日の初音界の最大の話題は、「みくみくにしてあげる♪ドナドナ事件」であろうかと思う。


まず、流れが全部把握できてないので、わかってる範囲で。
多少の事実誤認もあるかもしれないので、そのへんはスルーしていただくか指摘していただくかしたら、後で直します。


「みくみくにしてあげる♪」は、ika氏の作詞作曲編曲により、ニコニコ動画で公開されたミクオリジナル曲。初音ミク草創期に公開された曲であり、現在に至るまで最も多く再生されてきた超定番曲と言える。

みくみくにしてあげる♪
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1097445


で、先頃、この曲を含む何曲かがニコニコ動画ニワンゴ)の親会社であるところのドワンゴによって、

  • カラオケ配信
  • 着うた/着うたフル配信

された。
この折、作品の権利の管理が作者からドワンゴの関連子会社に委託されたのだが、この関連子会社はみくみくにしてあげる♪を音楽著作権管理団体であるJASRACに委託。そこで委託された権利の中に、演奏権が含まれてた。


重要なのは、「演奏権」「上映権」などを含めた二次・三次創作、オマージュなどできなくなる可能性が高まった、という点。
現時点ではニコニコ動画内での演奏、上映については制限されていない、ということになってはいるようだが、どこまでの制限を受けるのかの子細がわからない。


これに関連して、みくみくにしてあげる♪を底歌に「歌ってみた」もの、みくみくにしてあげる♪をBGMとして作成された自作PV/自作3DCGの類が自粛傾向に向かっているようだ。
例えば、歌ってみたMP3を配信しているとそれが無償であっても「原曲権利者の権利・利益を侵害しており、損なわれた利益分の料金を払え」という徴収請求がJASRAC方面からやってくる恐れがある。
これは原曲作者が転用、上演、演奏を許諾していたとしても関係がない。
JASRACが管理委託された時点で、JASRACJASRACの方針によって使用料徴収を行うためだ。
しかし、原曲作者と使用者の間でトラブルがあっても、JASRACは守ってくれるわけではなく、またJASRACが徴収した「権利の利用料」が原曲作者の手に渡るわけでもないらしい。


音楽著作権団体による使用料徴収というのはJASRACだけが特化しているわけでもなくて、米欧などでも「クリスマスに子供のチャリティイベントでクリスマスソングを演奏しようとしたら、演奏料を請求された。さらに、隣室にあったラジカセからクリスマスソングが流れていたので、その分も【公共の場所で無断で演奏・上演した】として請求された」なんて事件が起きている。
日本国内でも流しのギター、ピアノバーでの演奏、路上演奏なんかが請求を受けた事例があるのだという。*1

すごいぜ!JASRAC伝説
http://iiaccess.net/upload/view.php/000901.swf

その他のJASRAC関連話はこのblogでは今までにも何度か書いてきたので割愛。
http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/searchdiary?word=JASRAC



みくみくにしてあげる♪はもともとニコニコ動画内での「コピーと改変と無断演奏」によってムーブメントが盛り上がり、広く知られるようになった。
つい最近のメルト祭りもそうだったけど、ニコニコ動画内でブレイクする曲の多くは、
「原曲公開」
 ↓
「話題に」
 ↓
「歌ってみた」「演奏してみた」「BGMに使って別動画作成」
 ↓
「話題に」
 ↓
「原曲に遡って原曲がまた話題に」
というスパイラルによって、原曲人気が膨らんでいく。
ほぼこのパターンに当てはまらないものはない。原曲の改変、MADを当然の前提としているが故に、この「不特定多数の改変者」によって話題が拡散拡大していく。
形は若干異なるものの、「歌われることによって、歌は知られていく」というのは、まさにこれを指している。


JASRACに楽曲が委託されたことによって大きく影響を受ける恐れがあるのは「演奏」「上演」かと思われる。歌うことができなくなり、それをネタにした映像動画も作れなくなる。
ニコニコ動画内などで行われてきた二次創作、或いは勝手演奏・歌唱は、JASRACの主張に倣えば「委託されている歌曲の権利を侵害するもの」「歌曲の演奏権・歌唱権・上演権は原作者のみが持ち、その他へは許さない*2」「原作者が許しても、JASRACが委託された以上は許さない」ということになる。
こうした二次創作・勝手演奏・歌唱は、原曲にとってはむしろ曲の存在そのものが広く知られるための、視聴者による自発的な宣伝、周知・伝達の補助という意味を持つのだが、そこの部分は「やってはいけない」ということになってしまう。


自由に歌うな
という取り締まりがJASRACの仕事であるという認識を覆す説明ができない限り、JASRAC歌を奪う団体という解釈をされ続けるような気がする。


そういえば、JASRACというのは一度脱退すると再加入ができない規則になっているらしい。
TV/ラジオなどでの放送から、カラオケ・有線での配信、着うたなどの配信その他、音楽の権利が行使されるあらゆる機会でJASRACは料金徴収を行うため、一度JASRACと縁切りをしてしまうと、音楽業界で食べていくのが非常に困難になる。


この手の話題では必ず出てくるのがP-MODEL平沢進
独自のネットでの音楽配信DRM関連の話題ではしばしば登場する、この分野の先駆者でもあるので、自分用のメモ&ご存じではない人のために紹介しておきたい。

平沢進P-MODEL)】

「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0606/12/news005.html
MP3音楽配信を開始した「P-MODEL」の平沢進氏に聞く
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/1999/0714/pmodel.htm


※これ関連についていろいろ知りたい人は、「JASRAC 平沢進」でぐぐってみるといいかもしれない。ヒントになるような話がいろいろ出てくる。
http://www.google.com/search?hl=ja&lr=lang_ja&ie=UTF-8&oe=UTF-8&q=JASRAC+%E5%B9%B3%E6%B2%A2%E9%80%B2&num=50


正直な話、原曲作者の権利は保護されるべきだとは思っている。

が、二次創作、演奏などを制限することは、結果的に原曲を殺してしまうことになるのではないか、とも思っている。昨今のヒット曲が半年もすると忘れ去られ、一年もすると歌詞が出てこないような代物に成り果て、曲の寿命(消費期間)が短く、「長く記憶される名曲」が生まれてきにくくなっているのは、単にメジャーでは順番待ちの楽曲が増えているからというだけではなくて、「再演/演奏/歌唱」が著しく阻害されているからなのではないか? という思いは日増しに強くなっている。
少し前のエントリーでも触れた「ラメちゃんたらぎっちょんちょんでパイノパイノパイ〜♪」の東京節のように、繰り返し歌われてきたものは何十年経ってもびくともしない。
しかし、歌われなくなった曲はあっという間に朽ち果てる。

JASRACについて】

社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/


日本音楽著作権協会 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/JASRAC

Wikipediaの記事を見ると、1930〜40年頃に今のJASRACと同じやり方で演奏料徴収を行おうとしたドイツ人・プラーゲとの係争によって、日本国内で一年近くにもわたって海外の歌曲をオーケストラ演奏できなくなるという事件があった、とある。
これに対抗するためにJASRACが作られ、プラーゲは日本から排除されたわけなのだが、結果的にプラーゲが行っていたことをJASRACがまるごと受け継いでいるのが現状と言える。


JASRACに替わる音楽著作権管理団体を、ニワンゴ、有志が作ってしまうってのはどうだろうってなことを考えた。Youtubeから締め出された後に、返す刀でSMILEVIDEOを作った彼らが、果たしてそういうところにまで業務拡張をするかどうかは不明なんだけど、何もJASRACに美味しい汁を吸わせておくことないよね、的な発想wでやらないとも限らない。
そういう展開になったらなったでまた一波乱あるんだろうけど、JASRAC独占状態の音楽著作権権利の実態というのをつまびらかにしつつ、楽曲作者が権利管理の在り方を考えた上で、委託先を選べる(選択肢からJASRACを外せるw)というのは、それはそれでおもしろいのかもな、と妄想。




ホントは、先だってのhalyosyの一件などから、「演奏権フリー曲を歌うことによる歌唱者のプレビューの場としてのニコニコ動画」……というのを考えてみようかなー、と思っていたんだけど、みくドナ事件でなんかモチベーションが下がったので、そのテーマはまたしばしお蔵入り。


遠からず、MADのみならずカバー曲を演奏させたものを、人前に公開することは違法になる。そうなると、ニコニコ動画のかなりの部分を占めている動画は違法動画ということになるだろう。
その中にあって、初音ミク/鏡音リン・レンなどを用いて作られた、JASRACに登録されていないオリジナル楽曲を、作者の同意の下で二次創作・歌唱・上演することは、最後の砦になるのかもしれない。




先日も書いた話を換骨奪胎して繰り返すのもなんだけど、


歌は歌われてこそ歌。
歌うことを阻まれた歌は、短命に終わり歌い継がれない。
音楽は、こうして殺される。

*1:このへん、半ば都市伝説化しているものでもあるのだけど、類例情報は非常に多いので、各自でぐぐってみて判断していただきたい。

*2:金を払わない限り