左半身

怪談の仕事をやっている人は、大概、何かしらの自分ルールを持っているようだ。御札を貼るとか、お守り必携とかは基本中の基本で、僕が知る限りでは数珠かそれに類するものを持っている、ブレスレットとして腕に付けている人が多いような気がする。夢明さんは魔除けと魔吸いの数珠様のものを付けていた。西浦和也さんも同様の数珠を付けている。
効果の程については正直なところわからない。何も起きていないのがそれらのおかげなのか、それらの効能に関わらず何も起きていないだけなのか、それを区別する術はないからだ。
他には、仕事を始める前、もしくは終わる前に御祓いをするという人も多い。しないでいて後で何かあると厭だから、というのが御祓いをする理由で一番大きい。自分に累が及ぶうちはいいけど、自分には来ないで自分の周囲に累が及んだとき、「おまえがあんな仕事をしているからで、おまえが御祓いをしなかったからだ!」と指弾されるのはかなわないから、アリバイというか身の潔白を立てるために、そして自分は確かに打てる手は全て打った、という自分自身への弁明のために、御祓いに行ったりするんじゃないかな、と常々思っている。


何度か書いてきた話だけど、「超」怖い話は近年では御祓いに行ってない。僕は今年は本厄なので、一応年頭に厄払いには行ってきた。が、仕事ごとに何か御祓いのようなものをしているかと言われると、やっぱりいつも通りしてないなあ、と思う。
僕の習慣として、「神様チャージ」と「神様と酒盛り」というのがある。年に一度、大晦日氏神さんの御札をもらうということと、実話怪談の仕事を始めるときと終わるときは、御神酒は欠かさない、という決まり。とは言え、うちには仏壇も神棚もないわけで、貰ってきた御札は台所の水屋の上に鎮座坐している。そこに、酒と塩だけの簡易式。こんなんでいいんかなと思わないこともないけど、もう十年以上このスタイルだし、まあいっか、ということになっている。


先月、「超」怖い話の終わりのときには御神酒を上げた記憶がぼんやりあるのだが、怪医が始まるときにしたかどうか記憶が曖昧。
そのせいなのかどうなのか、声が出なくなるほどの風邪を引くわ、それがまた随分と引っぱるわでエライ目にあった。お知らせメールのネタ相談で夢明さんと連絡を取ったときに、夢明さんもやられてたらしくて「今年の風邪は引っぱるねえ」てな話が出たのだが、僕はもう三週間近く引っぱっている。


自分の体調が多少よくなかったりするのは、恐らく大部分は自分自身の不摂生によるものだろう、と思っている。
が、ときどき由来のわからないというか、由来をできれば認めたくないような不調が起こることがある。
怪談の元ネタ、つまり取材メモだったり詳細をお知らせいただいたメールだったり、そういうものを整理したり、もしくはお話を直接伺っていたり、或いはそうやって掘り起こして書かれた実話怪談の原稿を拝見しているときなどに、それは起こる。
なんだか、左腹……臍から左に10cm、下に2cmほどの場所に、じんわりとした張りが現れることがある。痛いわけではなく、気持ちが悪いわけでもなくて、なにか先の丸い棒のようなもので腹の内側から骨盤のほうに向けてグイグイと押されるような違和感。
それはすぐに消える。健康診断でも何か出たことないし。持病の尿管結石のそれともまったく違う。
怪談を読んでいるとき、怪異の整理をしているとき。それはときどき来る。じわーっと来るとき、「ああ、これヤバイんだな」とぼんやり思ったりする。そういうときは、仕事を切り上げて酒飲んで寝る。お清め。


今回、ぶつけたわけでも捻ったわけでも寝違えたわけでもないのだが、左半身の背中側が痛くなる現象が出た。いつもの左腹からまっすぐ突き抜けた裏側なのだが、筋肉痛にも似てるような。ただ、左半身だなあ、とぼんやり思った。
そういえば、「弩」怖い話2 HomeSweetHomeを書いている最中に、肋骨にひびが入る結構大きな怪我をした。ひびが入ったのは左肋骨だった。
なんか、そっち方面に絡んだ怪我や不調って、どういうわけだか左が多いんだよなあ。
右の怪我つったら、大垂水峠で自爆したとき*1と、山手通りで右直事故をもらったとき*2の二度くらいで、他は全部左半身だわ。


怖い体験、怖い話、怖い何かというのは、合理的・理論的に証明することは難しいのだけど、長くいろいろやってると経験主義というか「これは○○○のパターン」みたいなのが身についてきたりはするらしい。
左半身が調子悪いときは、たぶん僕は何かによって酷い目に遭わされる予兆なのかもしれない。
そして今、非常に調子悪い。左半身が。



ああもう、なんて迷惑な(´Д`)ノ

*1:「怖い」の校了直後

*2:「超」怖い話Aの最中