北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除について

これについては、まず2008/6/26のブッシュ演説まで遡る必要があり、また実を言えば、ここから1mmも状況は動いていないのではないか、という気もする。

2008年6月26日付けブッシュ大統領演説の要旨
http://yasz.hp.infoseek.co.jp/source/bush-20080626.htm

このまとめは某スレwのウォッチャーがまとめたもので、オリジナルソースはホワイトハウス。これを翻訳しているが、原文はホワイトソースのリリースで確認できるので、英語に自信のある人はこちらをどうぞ。

Executive Order: Continuing Certain Restrictions with Respect to North Korea and North Korean Nationals
北朝鮮および北朝鮮の国民に関する確定的な(移動)制限を継続することについての大統領令
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/06/20080626-4.html (原文)
President Bush Discusses North Korea
北朝鮮に関する記者会見
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/06/20080626-9.html (原文)

要するに、
「約束を守れば45日以内に解除する」
という通告で、これが6月頃に騒がれた「アメリカはテロ指定を解除するつもりだ!」という奴で、ここで指定された45日の期限が2008/8/11だったので、8月10日頃にまた「アメリカはテロ指定を解除するつもりだ!」と騒がれた。
そして今回は北朝鮮が未報告の施設(ウランの分離施設など)を除き、予め報告されていたものに限れば条件は満たされたとして、アメリ国務省によるテロ指定国家解除が発表された、というのが昨日今日の流れ。


で、ここでこの6/26の演説がまだ生きている、という話に繋がってくる。2008年6月26日付けブッシュ大統領演説の要旨(http://yasz.hp.infoseek.co.jp/source/bush-20080626.htm )にある超訳の最後の1行、ホワイトハウスソースのリリースにある、「Executive Order: Continuing Certain Restrictions with Respect to North Korea and North Korean Nationals/北朝鮮および北朝鮮の国民に関する確定的な(移動)制限を継続することについての大統領令http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/06/20080626-4.html )が、俄然意味を持ってくる。
ここも引用してしまうと、

「しかし、偽札、麻薬、核技術拡散に関連した疑惑はこれらのテロ支援国家の解除とは別であり、国際的経済制裁北朝鮮に対するドル決済の凍結(移動制限)は、これまで通り今後も継続する(事実上の経済制裁の継続)

と、これが重要で、6/26のブッシュ演説はこれを説明している。
繰り返すと、今回のテロ支援国家指定を解除したのはアメリ国務省(日本で言えば外務省に相当)なのだが、実を言えばこの国務省が指定したテロ支援国家指定に基づく制裁は1950年の朝鮮戦争のに端を発するもので、その大半は2000年頃に実質的に解除されており、名目上のみ「交戦相手国への嫌がらせ*1」として残されていたもの。
ブッシュが念押ししている「偽札、麻薬、核技術拡散」のうちの前二件は米国務省ではなく、財務省が管轄している。
現在の北朝鮮にダメージを与えている制裁というのは、ドル市場への接続禁止(国際金融においてドルで決済できない、買い物をしてもドルで支払ができないし、売買したものをドルで受け取れない)で、これが実質的に北朝鮮が技術を販売することも物資を購入することもできない、干乾し状態に追い込む、実質的な制裁手段となっている。
国務省テロ支援国家指定と財務省の「移動制限の継続」は、実は連動していない別個の制裁であって、今回名目が解除されたテロ支援国家指定と、継続している財務省の「移動制限の継続」は無関係であり、北朝鮮への制裁は継続するし、北朝鮮がまったくのフリーハンドを得たわけではない。


さらに、国内の報道では、

http://hosted.ap.org/dynamic/stories/U/US_KOREAS_NUCLEAR?SITE=WVEC&SECTION=HOME&TEMPLATE=DEFAULT

The removal is only provisional, they said. North Korea would return to the list if it fails to comply
with inspections of its nuclear facilities as part of the effort to get it to abandon atomic weapons.

意訳
「この指定解除は暫定的/条件付きのものに過ぎず、北朝鮮が核放棄計画の核施設の査察に応じない場合は、再びテロ支援国家指定に戻される」

という今回の国務省テロ支援国家指定の解除に付けられた付帯事項に関する説明が、抜け落ちた状態で話が一人歩きしていく恐れが高く、恐らくそうなっていくだろう。
この場合の「核放棄計画に応じなければ」は、大統領演説にもある「核技術拡散の疑い」と同一と見てよい。


アメリカにとっての北朝鮮核兵器は、「ノドン2号という、北米大陸に直接届く運搬技術」を伴ったものであると同時に、関連核技術をイラン・パキスタン・シリアなどヨーロッパに手が届く地域に輸出していることに対する警戒対象であるわけで、今回のテロ支援国家指定を皮切りに北朝鮮による核開発と核技術拡散をアメリカが容認する、というようなことはそもそも起こり得ない。制御不能な反米的小国が次々に粗製濫造された核兵器を持つような展開は、アメリカ/EUともに避けたい展開であり、この点に限れば帝政wを復活させつつあるロシアも同様であろう。
そんなわけで、まとめ。

  • 今回解除が発表された国務省による朝鮮戦争に端を発したテロ支援国家指定は名目のみとなっている。
  • 財務省による移動制限(北朝鮮にダメージを与えている実態制裁)は依然として継続しており、解除の見込みはない。
  • 今回の解除も「北朝鮮が核技術拡散に関する報告に応じない場合、元の状態に戻される」という付帯事項があり、これも6/26のブッシュ演説で念を押された後から変わっていない。
  • 国務省財務省・付帯事項について、欠損することなく合わせて冷静に報じている報道以外は、「日本は置き去り、北の核開発を世界が容認、ブッシュは花道を飾りたがっている」という煽動報道に向かうが、これは間違いである。


また、アメリカが今回のテロ支援国家指定解除を持ち出してきたのは、金正日の生死を確認するためのブラフではないかと思える。
これが名目上のものであるにせよ、北朝鮮にとってテロ支援国家指定解除という成果は「金正日米帝から奪い取った誇るもの」であるはずで、これについて金正日自身の何らかのコメント或いは動きが見られるはずだ。
金正日については脳卒中によって重篤状態と伝えられており、この数日内に出てきた「サッカー観戦情報」などについてもいつ撮影されたかわからない過去の映像/写真ではないかという疑いが濃厚である。
金正日が既に死亡しているか、政治的に死亡している(北朝鮮国内の政治・外交・軍事について掌握できていない)のだとすると、今回の「テロ支援国家指定解除」について、誰がどのように反応するかで、金正日の権力を誰が継承したかが判明する。


金正日の後継者は、長男の金正男金正哲などなどがいるわけだが、それらのいずれも現時点では継承者になっていないものと思える。(正男の常駐地は北京だし)
今回のテロ支援国家指定解除を受けて、

のどちらになるかについて、アメリカは注視している。
実際には、金正日はすでに存在せず、誰が金正日の名代として反応するか、それについて北朝鮮国内のその他の諸勢力が一致団結するかどうかで、今後の北朝鮮の扱い方が変わってくる。


今回のテロ支援国家指定解除は、そうしたことを知るための猿芝居wだと思えるのだが、それについて真っ先に乗っかってしまうのが日本のマスコミだとすると、いろいろ真に受けすぎ、深く考えずに踊らされすぎ、キューバ危機でブラフに踊らされたケネディを笑える人は、日本には多くないっていうことかもと思わなくもない。


そういうわけで、こういうときほど落ち着いて情報を精査しなければいかんなあ、と人の振り見て我が振り修正。

*1:意訳w