ガジェット好きが試すべき寿司

そういえば、先日の魚河岸日本一で気づいた件。


腹一杯食っても2000円以内くらいで、乾ききった回転鮨よりはるかにいいネタの寿司が食える立ち食い寿司をこよなく愛するようになって早数年。忌火起草の仕事でほぼ毎週、新宿のチュンソフトに通っていた頃は、帰りに必ず立ち寄っていた。昔から気分転換は「美味しいモノを食べる」だったw
で。
立ち食い寿司・魚河岸日本一は都内に何店舗かあって、どこも基本はカウンターのみ、座席なし、中でも新宿西口店は職人さんがヅケ場に入るのに一度店の外に出て、茶室の躙り口かってくらい狭い非常口みたいな出入り口から入らなければならず、もし隣のビルが火事になったら、あの職人さんたちはカウンターを乗り越えなければ避難できないんじゃないかと心配になったりする。
客席もべらぼうに狭くて、たぶんちょっと太い客が入ってきたりするとホール係が茶を出しに行けない狭さ。


……そこが本題じゃないんだった。
魚河岸日本一は職人さんが巡回してるみたいで、半年もするとA店からB店へ、みたいな感じで他の店舗に異動になったりしていて、池袋店に入ったら新宿西口店の顔見知りの職人さんがいて「あれ?」「おや?」なんてこともしばしばあった。
まあ、それでも若い職人さんから年季が入った(おそらくは自分の店を潰して再就職とかのw)職人さんまで、いろいろな職人さんがいて、それぞれがそれなりにちゃんとした寿司を握ってくれていたわけなのだが。
こないだ、12/17の晩に行ったとき、なんとなくいつもと寿司桶が違うなーと思いながら寿司をもごもごやっていて、ハタ、と違いに気づいた。
寿司桶の隅に、1カン分のシャリがちょこんと乗っかっている。
アレ? と思っていると、職人さんが素速くそのシャリを崩して他のシャリの山に混ぜ込む。アレ? と思いながら茶をすすっていると、他の客から「ヤリイカとアジ」と注文が入った。
職人さんは「あい、ヤリイカとアジね」と答えて、再び寿司桶に手を入れた。すると、寿司桶の少し平たいスペースに、ニョキッとシャリが1カン分現れた。


……なんというか、「寿司ロボット」ってあるじゃないすか。ローラーでシャリを絞り出して、上にネタをのっけた状態で自販機よろしく寿司を完成させるアレ。量販系回転鮨のバックヤードで大回転してる世紀の発明のw
この寿司桶はあれの簡易版というか、職人アシスト版とも言えるもので、「1カン分のシャリ」を正確に量って、ある程度シャリの形にしておいてくれる、という装置であるらしい。言わば、寿司アシストマシン。
ネタを乗せて握り込む、海苔で軍艦にする、シャコにツメを塗る、といった最終的な仕上げはもちろん職人さんがすることになるわけなのだが、普通の回転鮨のように「予め作った寿司を回転させてストックする」というのと違って、「注文されてから握って提供する」「店が狭くてベルトコンベアを回すゆとりがない」「客の注文と回転が速すぎる」などの特殊条件を持つ立ち食い専門店の事情に特化させて、シャリを握る数秒を短縮するという技術なのではあるまいかと思われた。


寿司というものはきちんとした職人さんが全部手仕事で……というのは、それはそれでわかる。回転鮨じゃねえんだ、というのもそれはそれでわかるのだが、安価な回転鮨の現場と優雅な高級寿司の中間的な位置づけで、その双方のいいとこ取りをするべく、可能な範囲で合理化と効率化をするべく導入された、このシャリ自動成型寿司桶は、ガジェット好きなら一見の価値があると思う。
自動寿司桶は新宿西口店のヅケ場に2機あって、3人の職人さんが握るのをアシストしている。カウンターからもばっちり見える位置に置かれているので、興味があって寿司も好きな人にはオススメかも。


本気でいい寿司は年に何度も食えないけど、立ち食い寿司なら月に何度か食える。干からびた回転鮨よりはずっとガッカリ感も少ないw
そこを埋めるニッチガジェットということで、シャリ自動整形寿司桶の存在を、僕は肯定しておきたい。魚食いの寿司好きとして。


池袋北口店とか秋葉原店とか新橋店とかにも導入されてんのかどうか、そこらへんが不明。
新宿西口店も、10月か11月くらいに行ったときにはまだ普通の寿司桶だったと思うので、導入はわりと最近のような気がする。
ビールサーバーと同じで、「あれが自宅にあればなあ」と思わなくもないけど、ビールサーバーと同じで手入れが面倒wなのと寿司桶に入れるシャリは自分で作らなきゃならんということなどを考慮すると、やっぱり寿司は食いに行くモノだよな、ということで。


で、この手の装置。シャリ保温装置を備えた寿司ロボットとかいうらしい。業務用は49万もするのか。
http://chefs-kitchen.shop-pro.jp/?pid=8973380
シャリ玉製造器は、このような上からシャリを絞り出して整形するタイプが多いようで、検索するとこの寿司ロボットの類型機がいっぱい出てきた。
が、僕が見たのは↑の大がかりなシャリ玉製造機ではなくて、あの狭いヅケ場でも使えるような、普通の寿司桶と同じ大きさの小型版だった。


もっと調べてみると、製品名までズバリ見つかった。
http://www.suzumo.co.jp/products/pop/ssg-gto/index.html
スズモというメーカーによる、「寿司職人 助人」という製品で、「寿司・おむすび兼用お櫃型ロボット」とカテゴライズされている。
寿司なら、1時間あたり1800カン製造可能www
業務用機器だけどいくらで売ってんのかなと思って楽天を調べたら見つからなかった。ヤフオクでは、即決20万、スタートは10万から。
http://page12.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/p135973312
へー。
こちらのページ(http://www.jpaa.or.jp/activity/publication/hits/hits24.html)によると、本来の定価は126万。……126万!? 高っ(゚д゚lll) でも、リースだと1日あたり840円。安ーw バイト1人の1時間分の時給程度で、修業10年くらいの職人さんと同程度のシャリ玉が作れるんだったら、そりゃあ機械導入するわな。


アメリカやオーストラリアなどの超広大な農場で仕事をする農機具と、日本のようにそれほど大きくはない畑でも、高齢化した従事者の作業負担を軽減するための農機具は、性格が大きく異なる。*1要するに、ごく小さい規模での単純作業だけど確実に需要はある、みたいなのが日本の農機具の傾向と言える。
それと同じで、単純作業の上に仕事単価が安く、修業が大変でなり手がなかなかいないけど需要はある……というような分野は、こういう専用機機器にどんどん置き換えられていくのかもしれんねー、と思った。


もっとも、寿司の場合はネタの仕込みだの、下拵えだの、海鮮の仕入れだの、現状では機械では対応できない(できても高価・大がかりになりすぎる)分野についてはまだまだ熟練の職人の目が重要な位置を占めてるわけで、日本人お得意の合理化・効率化と味と満足感と安全のいいとこ取りは、どんどん進んでいただいていいんじゃないかと思うのだった。
ああ、また寿司食いたい。
いや、食わねば死ぬ。

*1:このへん、ホンダの農機具なんかを紐解くといろいろな工夫が見られて大変楽しい