盗んだバイクで走りだす〜

高速鉄道最大手の仏アルストム社が中国に反発、中国製部品の不買運動を呼びかけ - Technobahn
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200903171951

中国国内の高速鉄道開発に当たって、欧州(仏独)、カナダ、日本などが、車両の大量生産契約を念頭に中国に技術供与を行った。
車両開発が終わり、いざ大量生産の段階に至って、「中国国内で車両を生産すること」という条件が付けられた。
この結果、技術供与した欧州勢は競合から弾き出され、「欧州設計開発の車両を、中国国内の企業が【中国の独自技術】として生産する」ことになった。
これは、「中国は欧州の車両生産技術の修得が終わったので、後は中国国内でやります」というか、技術の盗用だ、というのが仏アルストム社の主張で、中国は今後「高速鉄道の輸出に乗り出す」と表明しており、欧州は自国開発技術で作られたクローン品とも言うべき中国製車両と競争しなければならなくなるらしい。


というのが、この記事の骨子なんだけど、ゲームに例えるとw、「海賊版を量産して、正規品を駆逐する」とか。
iPodに例えると、「iPodの生産工場を中国に作って量産していたら、その工場のノウハウがごっそり流出して、中国製IPOdみたいなのが量産されてiPodを脅かし始めた、みたいな。*1
中国に技術供与したら、技術習得後に技術者が流出して、「独自技術」と称して内製生産を始めて、技術供与した側を駆逐してしまった挙げ句に技術供与国の市場を中国製品が乗っ取ってしまうっていうのはよくあることで、僕に馴染みの深いところでは「備長炭」と「割り箸」もそう。
割り箸については以前にも書いた気がするけど、日本国産品は元々間伐材の使い途のひとつとして割り箸やマッチが作られていたのが、安い中国産割り箸がダンピングまがいのやり方で入ってきた結果、間伐材原料の国産割り箸が駆逐されてしまった。中国は元々箸文化圏だけど「割り箸文化」というのは中国にはないものだったので、中国製割り箸はそのほぼ全量が日本市場または日本企業向け。今、割り箸市場の95%以上が中国製で、国内の割り箸加工工場は壊滅したが、この段になって中国は「今までが安すぎたので」と一斉卸値上げを画策。そうすると割り箸をサービスで付けてきたコンビニやファミレス、弁当屋は、割り箸をサービスする商習慣を続けられなくなるので、割り箸代を上乗せするか、そうでなければ「エコ」という口実でリサイクル箸への切り替えをせざるを得なくなった。リサイクル箸は結局洗浄の手間とコストが上乗せされるので、実は割り箸より遙かにエコじゃない。このへんもエコは口実で、中国産割り箸ダンピングに端を発した市場破壊。結局、割り箸需要が下がることで、そもそもの「間伐材の活用の一環として」の国産割り箸はますます需要が落ち、間伐材の処分ができなくなり、間伐をしなくなり、山が荒れていってしまう、という悪循環に。
かつてに比べてその需要そのものが減っているとはいえ木炭も同様で、間伐材利用の一環だったところが、後進国の産業振興など技術供与としてウバメガシを使った炭(=備長炭)の製法を伝えたところ、国内産備長炭が高級品になってしまうほど*2、100均で買えるような備長炭が逆輸入されるようになって、日本の炭市場は壊滅的に。


これと同じことが、鉄道産業を巡って欧州と中国の間に起きている、ということらしい。
アルストム社は「中国製部品の不買運動」を呼びかけているが、これで中国とこじれると今後の有望市場である中国から締め出されてしまうことになるので、同調する企業がどのくらい出てくるかは微妙。かといって、中国市場が有望だからという理由で技術供与や企業進出をすると、次から次へと心臓技術が流出・内製されて、逆に廉価で売り出されてくるというサイクルが繰り返され、結果的に中国製品に欧州鉄道産業は淘汰されてしまう可能性が出てくる。このあたり、仏アルストム社がどのくらい先までの展望を考えて反対しているのかは不明だけど、この不況で「目先の利益」に汲々としている欧州各社は仏アルストム社には同調しにくいだろうなあ、と思う。


他に、中国のビジネススタイルとしては、「経営が行き詰まった会社を、設備・資料・人材ごと買い取ってしまい、そのノウハウや機材・設備をまるごと中国に持ち帰って内製化してしまう」というものがある。
これは生産工作機械とその使い方のノウハウだけではなく、デザインなどにも及ぶ。イタリアのネクタイメーカーが買収された折、過去数十年、今後数十年分のデザインパターンが丸ごと買い取られ、それらが全て「中国製」としてイタリアに逆提供されてきたそうな。
また、中国領内に不時着したアメリカの警戒用航空機がまるごと接収され、徹底的に分解調査されてコピー機が出てきたり、AK47ライセンス生産していたはずが、ライセンスされていない「独自形式」のコピー品がアフリカや中東あたりのテロリストや反政府勢力に売られていたり、このへんは枚挙に暇がない。


「世界のレベル」に追いつき、「世界の市場」を素速く寡占するに当たって、中国は「安い労働力」の他に「素速い技術習得力」をも保っているわけで、新しい技術を作っても中国で生産するとすぐに中国に「持って行かれて」しまう。シャープが亀山工場を造った理由は、*3「工場の運用ノウハウの流出を防ぐ」ためだそうで、会社としての技術供与などもってのほか、技術者の流出も防がなければ優位を保つことは難しいらしい。
90年代から2000年代に掛けて、日本では「企画開発は国内、生産は中国工場で」というビジネスモデルが随分と幅を利かせた。結果、体力の少ない企業は生産を中国に分離することでリスク回避を進めた*4んだけど、結果的に現地で技術流出して安い競合品がすぐに出てしまうので、利益は思ったほどには上がらなかったらしい。結局、「最初のアイデア料」くらいだとか。


日本企業はこの10年くらい痛い目に遭い続けてきたけど、それでも利鞘はあるから中国投資を完全に辞めることもできない。これは一種の麻薬だよなー、と思いつつ、「少しでも有望な市場に食い込みたい」という利に動く欧州企業が、どういう対応をしていくのかは、ちょっと見所かなあと思った。

*1:脅かされてはいないけど、iPodがやたらとモデルチェンジするのは、そういうノウハウ流出に対する対応策なのかなあ。

*2:もともとナラ炭に比べれば高いけどw

*3:相手は中国だけではなく、LGやサムソンも対象なんだろうけど

*4:このへんは日経なんかが随分とオススメしてたw