政治献金・故人献金と、政治的ロードマップ
例によって数年後の自分のための覚え書きで簡単に。というつもりでいたら、結構書いちゃった。
まずは、鳩山代表の「故人献金」に関して、拾ってきたまとめ。
- 6月01日 民主党により衆議院に政治資金規正法改正案提出
- 6月16日 朝日が鳩山の“故人献金”をスクープ
- 6月25日 共同通信、週刊新潮が故人献金につづき“偽装献金”を報じる
- 6月25日 報ステで話題に、古館「また敵失ですか?」
- 6月25日 鳩山「秘書がやった」
- 6月25日 7月1日の党首討論を民主党が拒否
- 6月26日 秘書は入院中と判明
- 6月26日 鳩山「実務担当者の独断」
- 6月27日 日テレで偽装献金をテレビ初“報道”
- 6月28日 鳩山弟が「兄の虚偽記載は問題がある」と発言(フジテレビ新報道2001)
- 6月29日 民主党提出の政治資金規正法改正案を民主党が「準備ができていない」と難色を示し逃げる
- 6月29日 鳩山「個人の問題だ、党とは切り離す」6月30日定例代表会見での献金問題への回答を拒否(ぶら下がり)
- 6月29日 自公 鳩山小沢両氏を参考人に (NHK)
- 6月30日 新たに13人が鳩山への献金を否定 (読売)
- 6月30日 定例記者会見にて今日午後5:30から献金問題について会見すると発表(会見は一切公開されず)
- 6月30日 日テレとテレ朝が会見内容をそれぞれ15秒程度放送して終了 4年で90人193件2177万に増える
- 6月30日 他局も申し合わせたかのようにチョロっと報道 鳩山本人は代表続投の意思表明
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よくできたAAだなあ……というのはさておき。
鳩山民主党代表に進行中の故人献金疑惑に関する動きは上の通り。
通常、企業や団体ではない個人が政治献金を行うことを「個人献金」という。これそのものは違法ではなく、個人が本人の意志で政治家に寄付を行うことそのものは合法である。これはまず踏まえておかないと、「個人献金=違法・悪事」というに至ってしまう恐れがある。
政治家というと、金持ち或いは成金w、或いは政治家の地位や特権・影響力を利用して私腹を肥やす、というステロタイプなイメージがつきまとうのだが、これは元々古い自民党にいた頃の小沢一郎の師匠であるところの故・金丸信*1や、故・田中角栄*2が根付かせた、「政治は汚い」というイメージに基づくものだろうかと思う。
金持ちだから政治家になるのか、政治家だから金持ちになれるのか、という二択論に陥りがちなのだが、田中角栄以前の政治について言えば、「財を成し、名を成した人間が、権威が欲しくて手を出す」
もののように言われていた。
ただ、政治に手を出すと「家が傾くからやめてくれ」と親族に止められるケースも多かったらしい。*3
なぜか。
今ほどに選挙制度が整備されていなかった当時も、そして様々な規制や助成が整備された今でも、政治(特に選挙)というのは莫大な金が掛かるものだった。そして、政治家=公職とあるように、社会の公僕の最たるモノが政治家だったわけで、よほどの志を持って身を犠牲にしないとやっていけないというわけで、当時の政治家の多くは身銭を切って政治に関わっていた。
故に、政治家になると蔵は潰れ、家にはぺんぺん草も残らない、とまで言われた。
政治家になるにも、政治家を続けるにも、とにかくお金が掛かる。今では、事務所として議員会館を借りられたり、住居としての議員宿舎が提供されたり、一定の歳費*4を貰えたりしているわけだが、全国を遊説で回る、公民館を借りて演説会を、なんてことをしようと思ったら、とても歳費だけでは足りない。
そこで、歳費以外に「政治献金」を得る、ということになる。
現在の政治資金規正法では、「企業が、政治家個人・政治家個人の後援会(資金管理団体)に直接献金してはいけない」ということになっている。これは、名指し献金をすることによって便宜を図る依頼をする、つまりは、ぶっちゃけ献金の名を借りた贈収賄を違法とするためだ。
先の小沢一郎の西松献金疑惑というのは、ゼネコンである西松建設が、自社が業務委託を得るための小沢一郎による口添え、或いは自社が業務委託を得ることを小沢一郎による口添えで妨害されないための保険……つまりは、みかじめ料として小沢一郎に支払った、という性質のもの。しかし、企業による特定個人への献金は禁止されている/団体宛献金も献金額に上限があるので、企業名を出さずに別の政治団体・企業などを複数作り、そこに自社の社員の名前を本人の承諾を得ずに使う、または本人には『特別賞与』などの名目で会社から支払があったが、その金額をまるまる「本人による政治献金」に組み替えて小沢一郎への献金に振り当てた、というような図式だったらしい。
そういうことを西松建設側も意識して行っていて、さらにそういうやり方をするように具体的な指示を出していたのが、当の小沢一郎の第一秘書。
「秘書が勝手にやったことで、自分は与り知らない」
これは与野党問わず政治家の金銭スキャンダルが出てくるときの常套句で、秘書が自殺したりして真実は闇の中に沈むのが昭和のテンプレ。大久保秘書逃げてーw
これを経て民主党は「企業献金の禁止」を言い出した。そもそも企業献金を許可しているからこんなことになるんだ、と。
これには民主党内部の一部議員や、企業献金を得なければやっていけない議員を抱える自民党などから一斉に反発が出た。
政治というのは金が掛かるものだ。歳費だけで全てを賄うことはできないから、献金などの政治資金によって足りない分を賄うわけで、つまりは金に余裕があるほうが「手広い活動」ができる、ということになる。金があるほうが有利なわけだ。
企業献金が禁止されると誰が有利になるのかというと、
といったところか。
つまり、金持ちではなく労組や宗教的組織、何らかの市民運動w組織などの背景を持たない議員は、企業献金・個人献金を得られなければ、満足な政治活動が出来なくなる。
もっと言えば、金持ちvs労組貴族*8と宗教貴族*9の構図のみが成立することになる。
労組貴族と宗教貴族は基本的に左派であると考えてよい。「庶民の優遇」を唱え、大きな政府による社会福祉の拡大が主柱になるが、高福祉は結果的に高額税金でなければ賄うことができないので、「高い金を払って高いサービスを得る」というのが現実になるのだが、庶民優遇の視点からはそれはできないから、「高い福祉を安い税金で」という主張をせざるを得なくなる。それを成立させるためには、福祉に不要なもの、または興味がないものをどんどん削れ、ということになるので、その正統性・正当な根拠として「戦争反対、防衛費を削れ」という形で、安全保障費用の削減に走ることになる。この平成の刀狩り的な考え方は、世界がすべて平和で安全なら問題ない。*10しかし、実際には「安全が保障されているからこそ、その恩恵として企業や個人が納税可能な程度の経済活動ができるわけで*11
安全保障というのは「抜かずの真剣」であるところに意義があるもので、「抜かないなら竹光で十分、竹光だから安心してください」と喧伝しちゃったら、安全保障の意味はなくなり「襲っても竹光に殺されることはないから、安心して襲いかかろう」ということにもなってくる。
安全保障により企業活動が活発になれば、企業からの税収が期待でき、さらに企業所属の社員、業務増による雇用増*12などが見込めるわけで、安全保障にちゃんと力を入れましょう、というのが金持ち(=企業の主張を反映した意見)ということになる。
そこで、少ないパイを巡って「個人を養うには企業の維持が優先」か「個人が食えれば企業なんか潰れたっていい」か、というのが対立項になる。このへん、民主主義という皿の上に、資本主義と共産主義(社会主義)という異なる料理が混在するようになってから、ずっと言われてきたことのような気がするので割愛。
要するに、政治献金全般の悪であると見なすと、「金持ちと労組関係者と宗教関係者しか政治家になれなくなるよ?」というのを踏まえる必要があるわけなのだった。
で。
鳩山代表の故人献金問題の場合は、その政治献金が、個人ではなくて故人からだった、というもの。故人献金って美味いこと言うなと思った。
- 既に死んでいる人が、死んだ後に複数年にわたって献金していることになっていた。遺族からは「そんな事実はない」と反発。
- まだ生きている人が、まったく心当たりがないのに自分が複数年にわたって献金していることになっていた。当人が「そんな事実はない」と反発。
鳩山代表は「調査の結果、秘書が勝手にやっていたことで、自分は与り知らない」というテンプレ回答をしているようだ。これ、小沢一郎も言ってたね。
鳩山代表自身が幹事長時代、自民党の同様の疑惑に対して「任命責任というものがあり、秘書の過ちなら任命権者も責任をとるべきだ」と指摘している。*13
譲りに譲って「秘書の記載ミス」だとか「秘書が勝手にやった」んだとしよう。で、遺族も名前を使われた生者も「俺やってないし、金払ってないよ」ということだとする。
では、鳩山代表のところに振り込まれたお金は、誰の金?
という疑問が残る。間違えて別人の名前にしたなら、逆に名前が出てこなきゃいけない本来の献金者名があるはずなわけで、政治資金規正法では献金者の名前は経理担当者の捺印付きコピーとともに公開され、誰でも閲覧できるようにされていなければいかんわけで、匿名の献金者というのはあり得ないしあってはいけない。
「正規の献金者」の出所を辿っていったら、企業が名前を勝手に使ってとか、企業献金からはみ出した分を支援者名簿から適当に選んだ名前に割り当てて……なんて話が出てきそうだけど、今のところは誰も話題にしていない。
総選挙前にこの手のネタをやるのは政治的タブーらしいんだけど、これは総選挙後にやって政治家のスキャンダルにしたほうが話題になる=儲かるという商法的義理の話なんだろうか。でも、選挙後に政治家になってしまっている場合、国会開催中は当人が議員辞職しない限り、議員に対する不逮捕特権で逮捕できないわけで、結局秘書の自殺で曖昧に幕引きっていう展開になる。
このへん、献金金額が少ないから許される、多額だから許されないという金子の多寡の話ではないわけで、「たかだか数万円を鬼の首を取ったように」「そっちもやってるのになぜウチだけ。国策故人献金だ」という反論で切り抜けるのはちょいと難しいんじゃないかという気がする。
しかしこの鳩山故人献金問題が今このタイミングで明るみに出て誰が得をするのか。大きく言えば自民が得をしそうな話題であるわけなのだが……。
このスクープを拾ってきたのが朝日新聞らしいという話だが、ザッと見たところ最古の記事は、http://www.asahi.com/politics/update/0616/TKY200906150338.html だった。
新聞界は「読売と産経が与党系*14、朝日と毎日は左派より」という二律項で言われがちだが、読売は経団連より、産経は南北朝鮮で言うと韓国より*15、毎日新聞は旧社会党より、朝日新聞は共産党よりらしい。
右と左に分けた場合は、民主=左派のウィークポイントを左派の朝日が叩くのは不可思議に思えるけれども、朝日=共産党系と考えた場合、「民主の一人勝ちを許さない」という牽制なんじゃないかと思えてくる。陰謀論だけど。
民主党は二度躍進していて、一度目はそれまで一定の安定議席数を保持していた旧社民党や共産党の支持票を大幅に食った。つまり、「左派」よりはライトな「中道左派」「左翼じゃなくてリベラルと言ってくれ」くらいの人々、社民や共産の中でもどちらかといえば右側にいた人達が、「二大政党制」「政権交替できるかも」という餌に釣られて、一斉に民主党に乗り換えた。結果的に社民党は泡沫政党に、共産党も大幅に勢力減となった。
有権者が突然増えたり減ったり、どこかから連れてきたりということはできないので*16、「元々社民・共産だった人達が民主に動いた」ことが、民主党の最初の躍進と言える。*17
2007年の参院選では、今度は小沢一郎が自民党の支持層の一部を引っぺがして民主党に連れ帰った。これは、「自民党の中でも左派・リベラル」な層を取り込んだというよりも、「自民党の改革路線で割を食った、自民党の中でももっとも守旧的な既得権益層」を切り崩して持ち帰った、というのが正しいように思う。
保護農政で保護されてきた農水関係者、医者、地方の有力者などなど、昔の自民党でいい目を見てきた人々を根刮ぎ連れ出した。つまり、民主党なら「昔の自民党の政策を再現できる」と説いたわけだ。
2007年参院選は2005年郵政選挙の反動からくるお灸の結果と言われているが、実際には改革の割を食った人々を焚きつけた結果、地元密着の票田になってきた地方の小選挙区が、相当食われた結果でもある。小選挙区制は単一選挙区から一人しか選ばれないので、オセロのように盤面がひっくり返る。その結果が2007年参院選での民主躍進、自民惨敗であったのだろうと思う。
結果、今の民主党は「共産・社民からかっぱいだ左派系支持層」と「自民からかっぱいだ、いちばん自民らしい保守系支持層」が同居混在しているということになる。
これで政権運営できるのかかなり不安なのだけど、現状では「参院民主は左派が強い」次の衆院選で自民保守層を取り込んで勝った場合は「衆院民主は保守が強い」ということになり、政策決定の上で参院と衆院の党内対立が起きてくる可能性があるのではないか。
参院がウンと言わなければ、今の与野党のねじれ国会と同じことが、同一党内で起きてくることになるわけで、保守系の衆院民主支持層は、参院民主を押さえ込めない執行部に相当なフラストレーションを溜め込むことになるわけで、そこをハンドリングするために、結果的に衆院民主は自民との連立を選ぶか、再編を選ぶか、有権者による民主への失望が揺り返しとして自民を再度政権に押す、という動きになるか。*18
直近にある安全保障上の危機である北朝鮮の暴発について、誰も気にも留めていないのがちょっと怖い。
北朝鮮が総選挙前に核実験・ミサイル発射を次のステージで行えば、これは選挙の争点にせざるを得ない。友愛外交は今のところ何も成果を挙げておらず、安全保障上の脅威として世論が騒ぐ場合に、強い態度を取れなければある程度の支持層が民主から離れる。
それを離さないようにするために、北朝鮮の脅威というのを敢えて話題にさせない方向の報道協定でもあるんだろかと思わないでもない。*19
*2:元自民党総裁・総理大臣。田中真紀子の実父。土建系利権構造による地域への利益誘導をダシにした影響力/政治資金集金構造など、今の小沢一郎の手法を開発した元祖でもある
*3:小泉元総理の祖父・小泉又次郎が政治の道を目指したときも、親族からは猛反対されたらしい。
*4:政治家の給料。ただし、この中から、議員会館以外の私設事務所の維持費、公設秘書・私設秘書の給料、コピー代、切手代からその他一切の費用を捻出しなければならない。
*5:SGIとの繋がりが密接であることは、やはり有利なのだと思う。聖教新聞という集金システムを持つこともそうだけど、選挙のときに動員できるボランティアの確保などで有利。
*6:元々企業献金より聖教新聞のようなw赤旗の売上を持ち、積極的な党員による個人献金も多い。民主党の社会党系議員もそうだけど、日教組や連合など労働組合の支援を受けた議員の場合も、選挙のときの動員が有利になる。
*7:例えば会社社長だとか財閥の総帥だとか親が金持ちとか地元の名士とか。
*8:労組専従幹部職員で、その労組が所属する企業などで働いてはいない人達
*9:同じく宗教団体の幹部職員や、その支持を得た人達。どことは言いませんが幸福科学党とかということにしておく。
*10:秀吉は天下統一を終えたからこそ刀狩りをしたわけで。そして、叛乱の芽を摘むために、武器の押収を強制できるほどの強権を秀吉が手にして、初めて実現できた。9条教は、思想実現の強制力を持たずに、結果の果実だけを喧伝しているわけで、そのへんは画餅に過ぎないと思う。
*11:ソマリア海賊問題は、安全保障が成り立たない場合に経済活動がどういった影響を受けるかの好例であったと思う。多国籍軍による実力行使を伴う監視は海賊を減らし、それが行われる前=安全が保障されない状態の際は貨物船やタンカーが海賊に拿捕されるなど、経済的損失が大きかった。ロシアなんかは民間企業に委託して運搬中のT72戦車五両を海賊に奪われちゃったらしい。という噂。
*12:これを、雇用減に合わせて調整できるようにしたのが派遣雇用。正社員雇用にすると、今度は収益減となったときに人件費が嵩んで企業そのものが潰れてしまうか、人件費が安い海外に逃散することで、結果的に国内の雇用がなくなってしまうので。
*13:ソースは民主党のサイト。民主党サイト内を「任命責任」「秘書」で検索するとよいかも。まあ、いずれ削除してなかったことににされそうな気もするけど。
*16:外国人参政権ができたら別で、外国人参政権というのは新たな票田・新たな政治的圧力集団と不可分なのだが、この話は別の機会に。
*17:社民=旧社会党系議員団は、支持者・支持組織ごと民主に合流した。現在の参院民主の長である輿石東は山梨県の日教組を支持母体とし、日教組を使った資金集めとかで火だるまになった人
*18:たぶんそのときは衆院選より先に参院選が来ると思う。この流れが2010年夏までにくれば、政治的空白は最小で済むが、そうならない場合、政治的空白と混乱は4年後の2013年夏まで続く
*19:まあでも、この総選挙で自民が勝ってしまった場合、2010年夏の総選挙で自民がさらに負け込む可能性が高くなる。「民主党政権による薔薇色の未来」というご祝儀は年内は続くだろうけど、恐慌はなお数年続くとしたら「民主に替わってもいいことがない」という不満が燻り始めるのは来年3月の決算期頃。その後に参院選が来るわけで、今度の総選挙は次の参院選とセットで考えるテーマのような気がするんだけど、これもまた別項でいずれ。