民主党のマニフェストを肴に思考実験
一見して関連性のなさそうなものを繋ぎあわせることで、予想外の成果をもたらす製品というのがある。
古くは、ラジオとカセットを合わせてラジカセ、これにテレビを合わせてラテカセ*1。
これは単純なキメラ製品の喩えだけど、政策にもそういう性質のものがあったりした。
ちょっと古いけど、改正油濁法というのがあった。
これは、「日本の港に入港する100トン以上の船は、事故発生時の油漏れ事故に対応する保険に加入していなければ入港を認めない」というもの。座礁、転覆、火災などの事故を起こした船はタンカーであるなしに関わらず、燃料の重油を漏出させる恐れがあり、その災害処理に甚大な費用が掛かるということで、保険に入っていない船の受け入れをそもそも拒否する、拒否されたくなかったら保険に入ってきなさいね、というようなもの。
これは、実は実体としては北朝鮮の船舶を締め出す、事実上の北朝鮮への経済制裁のための法であった。
この保険に加入するには船級という格付けが必要で、北朝鮮の船は老朽船が多く、船を新造しない限り船級が得られない=保険に入れない=日本に入港できない、というものだった。*2
で。
民主党のマニフェストの中に、「外国人地方参政権」「地方主権・道州制の施行」「自衛隊防衛力の削減」というのがあるので、これを組み合わせると何ができるようになるのかを考えてみた。
外国人地方参政権
現在、日本国憲法では国政に参加できるのは日本国籍を持つもののみとなっている。地方参政権に関しては解釈が割れているところで、地方ならいいんじゃないか、というような意見も出ている。
地方行政は、国政(外交、防衛など)の主幹部分ではなく、主に社会保障などが中心なので、地方在住の外国人も行政サービスを受ける以上、参政権を持つべきではないか、というのが賛成派の主張の要旨。*3
この考え方は大韓民国民団(民団)などの、日本への特別永住資格を持つ在日外国人団体が強く主張しており、民主党・公明党はこの民団と意見を一にしており、民主党は特にこの民団の選挙支援を受ける立場にある。
所謂特別永住資格所有者は人数でいうと42万人。
この他に、外国人登録されている滞留外国人はおよそ221万人。
中には未成年や超短期滞留者もいるので、この全てが地方参政権の対象になるわけではないけど、仮にざっくり半数としても110万人が地方参政の資格を得ることになる。
参政権というのは、投票権だけではないわけで、被投票権、つまり議員などの立法員・行政官になる資格も保障することになる。
彼等はあくまで日本国籍は持たず、外国籍のまま日本の地方行政に行政側としても参加する資格を持つことになる。その地域の日本人は、平等に選挙によって選出された、非日本国籍人の行政統治を受けることになる。あくまで地方に限った話、社会保障など内政に限った話ではあるけれども。
地方主権・道州制の施行
二つめ、これは現在、知事会などが連合して、要するに大阪府の橋下府知事など地方行政の長が訴えているもの。我々に直接縁があるところでは、小泉政権下で行われた「三位一体改革」の一環で、それまで国が徴収していた所得税の一部を、地方自治体に納めるようになった。その結果、「あんまり意識してなかった所得税の減税+びっくりするほど跳ね上がった地方税の増税」で、増税感ばかりが刻みつけられた人もいたかと思う。*4
現在、多くの地方自治体は赤字経営を強いられているのだが、これを補うために、「地方独自の税収が足りない分」が国から交付されていた。三位一体改革では、「国が集めて地方に分配」というのをやめて、国の税収源をそのまま地方に渡す形になったわけだが、結果的に「増収になった県」と「さらに凹んだ県」などの格差が生まれた。
この格差を解消しつつ、さらに大きな権限を地方が持つようにすべきで、政府への権限集中を減らすべきだ、というのが地方主権、そのために地方の行政単位を道州の広域単位に拡大すべきだ、というのが道州制施行という政策案。
民主党はこのどちらについても賛成していて、国の権限を減らし、地方の独自性や権限を増やすべきだ、としている。
国というのは、市町村の集合である都道府県をさらに集合させて、ひとつにしたもの、と定義できる。
これなんだけど、道州を「藩」に置き換えて考えてみてもいい。
もし、日本が集権国家=ひとつの国の体裁を取れず、明治維新が「政府の刷新」ではなく、列藩それぞれが勝手に独立、勝手に海外列強と外交をする、という状態が続いた場合。明治維新直前には、薩摩と長州と幕府はそれぞれが勝手に英仏米露と外交を行っており、もし幕府が倒れないまま列藩が勝手に「分権国家」となっていたら、たぶん日本はひとつの国の形を成し得ないまま、南北に別れた朝鮮半島や東西に割れたドイツのように、列強の代理戦争をさせられていたかもしれなかたった。
合邦してひとつの国の体裁を取ることは斯様に重要であるわけだ。
が、地方分権が進みすぎ、個々が社会保障などの内政以上のことについて発言力を持つようになったりしていくと*5、日本はひとつの日本としての意思形成が今以上に難しくなる。
豆知識だが、陸上自衛隊の保有する戦車や戦闘車両には、ライトとウィンカーが点いている。戦闘中に右折左折するときにウィンカーを光らせる必要はまったく感じられないのだが、戦車などは日本国内では道路交通法の制限を受ける。そうした設備がないものは、道路を走れない。
戦車などの戦闘車両の通行については、地方自治体の合意や協力が必要不可欠である。
また、現在の自衛隊法では、万一敵襲があったときに、陣地設営は自由にできない。例えば、上陸してくる敵を迎え撃つときにそこが個人所有の農地だったら、勝手に掘り起こせない。百歩譲って自治体所有の土地であった場合も、自治体の同意がなければ戦車を隠しておくこともできない。
現状、総理大臣の依頼以外で自衛隊の展開が要請される場合(災害出動とか)も、自治体の長による要請がない限り出動できない。*6
地方自治体の権限が今以上に大きくなった場合、国からの安全保障上の行動要請について、地方自治体による拒否がより強力に行えるようになる。
自衛隊防衛力の削減
民主党のマニフェストを実現するために、民主党は現行の制度の「無駄を見直す」としている。民主党の支援団体には自治労、連合を始めとする労働組合が多く存在している。これらは旧社会党系列の組織で、そうした労組の大会・集会などではお馴染みの「戦争反対」「九条死守」のスローガンで知られる。*7
「戦争にいかないなら、戦車は要らない」
「九条があるから戦争はしない。使わない兵器を維持する必要はない」
「日米安保があるから戦争はアメリカにやらせろ。日本の兵器は減らせ」
「日本の武装は周辺国の緊張を高める」
というのが、こうした勢力の主張である。実際、防衛装備の導入コストもタダではない。もっといえば、自衛官の給料=人件費も安くはない。
そこを無駄だといって廃絶削除してしまっていいのかと言えば、もちろん答えはNOだ。
日本は武器輸出三原則*8のため、永らく他国に武器を輸出できなかった。元々は共産圏、内戦・紛争国に武器を売るべきではない、という自主規制だったものが、気が付いたら「全てNG」になっちゃってたアレなのだが、そのせいで他国の武器を買うことは出来ても、自国の武器を他国に輸出することはできない。
日本の場合、基本的に戦争をそんなにしない=兵器の消耗がないわけだから、補充という名目で武器を作り続けることはない。量産して廉価版を海外に売ることもないから、量産効果によるコスト削減もそうはできない。*9
故に、国産防衛装備は高い。高いから、導入にも維持にも金が掛かりすぎる。
では、全部海外購入にしてしまえばいいのかというと、全面的に海外購入に依存すると、いざ相手国と不仲になったときに、装備の供給が得られなくなる。また、そうなったときに慌てて自国供給をしようにも、技術がなければできない。
日本がなぜなかなか国産ジェット機を調達できないかと言えば、二次大戦後にジェットの開発を永らく禁止されている間に、諸国と技術差が開いてしまったというのが大きいんじゃないかと思う。技術の喪失は、このように大きな埋めがたい能力格差を生む。*10
また、現代軍事力というのは、二次大戦の昔のように「テッポー持たせて鉄兜をかぶせれば兵隊のできあがり」というわけにはいかない。兵器・装備品の多くは操作や維持に様々な知識を必要とするわけで、兵員の多くは、特殊職能を持つ技術者でもある。つまり、「人手が足りなくなったときに、慌てて徴兵すればなんとかなる」というようにはできていない。自衛隊も例外ではない。
しかも、日本は徴兵制は敷いていない。志願制のみであるわけで、志願制でそうした防衛力を維持する人的コストは安くはない。
そうした自衛隊の装備や人件費を無駄として一時的な人気取りから見直しをしてしまうと、長期的に取り返しが付かない。
最悪にまとめてみる
外国人は日本国籍を持たないので、日本の安全保障に対する義務や責任を負わない。
地方自治体は安全保障には関わらないが、国が自衛隊などを運用して行う安全保障上の行動について、「日本国籍を持たない地方行政長」が判断を下す可能性を生む。
例えば、「九州知事、李一孫」「沖縄州知事、陳虎海」なんて感じで、日本国籍を有さない外国人知事が、強化された地方自治権を楯に、中央政府主導で運用される自衛隊の展開を拒絶する可能性だって、ないとはいえない。*11
同時に、自衛隊の戦力は、無駄の見直しのために民主党政権がどんどん削減していくということで、いざというときには島嶼防衛にすら投入できない規模しか残ってないかもしれない。
ところで、「現時点でざっくりで110万人くらいしか参政権に手が届きそうな登録外国人がいないのなら、外国人が地方参政権を得ても大きな影響力を持つ立場には立てないのでは?」という疑問は、現時点では正しい。
民主党のマニフェストでは、沖縄に年間のべ3000万人の外国人長期ステイを、というのがあった。
自民党にも少子高齢化対策としての移民政策促進というものはあったが、自民党は「地方分権」とはセットにしていない。
民主党は「外国人参政権」「地方分権」「自衛隊見直し」「外国人の長期ステイ促進」をセットにしている。
いじわるなようだが、様々なピースを組み合わせると、そういう最悪な組み合わせというのも見えてくる。
その疑問は、個々のピースを眺めるだけでは見えてこず、そういう「可能性」はもちろん取り越し苦労である可能性は否めない。
が、可能性があることすらも思い当たらないのは、後で後悔することになりゃしまいか、とも思う。
分かった上でそうするのと、気付かずに後で悔やむのとでは、雲泥の開きがある。
*1:そういう製品があったのですw
*2:詳しくは「船舶油濁損害賠償保障法のまとめ」でぐぐると吉。
*3:地方で税金を支払っているのだから、政治にも参加できるべきではないか、というもの。
*4:こと23区の多くは人頭税みたいな制度なので、えらいこと上がったorz
*5:このへんは知事会の政策提案に、「重要政策について地方の同意を得る」などがあった。この重要政策には、例えば米軍基地や自衛隊駐屯地の配置などへの地方の合意も含まれる。例えば沖縄のように。
*6:阪神大震災の際、陸自は災害出動の準備をとうに済ませていたが、時の自治体の長からの要請がなかったため、懲罰覚悟の「自発的な斥候」という名目で出動した、という逸話がある。
*7:村山政権が自衛隊を認めたのは画期的(かつ、社会党崩壊の遠因にもなったw)だったが、社会党は今も自衛隊にいい顔はしていない。
*8:最近になって鳩山代表が緩和を言いだし、党内から突き上げを食らってた。
*10:先頃、アメリカは新宇宙探査に欠かせない原子力電池の材料になるプルトニウムを枯渇させてしまったのだが、再調達しようにも生産設備もなく、生産技術も失われていて、それを再獲得するのに1500億と長期くらい掛かるらしい。技術の喪失はこのように大きな損失を産む。
*11:外国人の参政権について言えば、僕はコト、【安全保障】について責任を負う立場にない人は、安全保障政策に僅かでも関わる立場に立つ資格はないと思う。彼等はいざとなったら母国に帰ることができるが、日本人は日本が母国なわけで、他に帰る先はない。だから、日本の安全保障については、逃げ出せない人間がその責任を負うべきだ、というように考えている。例えばツルネン・マルテイ(民主)ように、帰化外国人は、その時点ですでに日本人なわけで、日本に対する安全保障上の義務は有しているとは思う。が、蓮舫(民主)や白真勲(民主)のように、日本に帰化しながら「元の母国と帰化していない同胞のために働く」と宣言しているような犠牲的帰化外国人もいるわけで、いまひとつ民主党の外国人賛成権政策には、同意しにくい。