イルカ

そんなわけで、本日イルカ……じゃなくて、田舎から両親上京。
手土産はイルカ。
老父の言ではスズメイルカとのこと。
スズメイルカというのはイシイルカの地方名で、背中が黒くて腹皮は白い。マイルカも背中が黒く腹が白いのだが、イシイルカとの違いはクチバシの形で、マイルカはクチバシがあって水族館にいるいかにもイルカ、という形をしているのだが、イシイルカはクチバシがなくてどちらかというとシャチのような顔付きをしている。食用にされるイルカ類の中でも体長は最少に近く、妊娠期間は1年弱、寿命は10歳くらい。*1


今回は煮込みの状態で来たのだが、

  • 骨付き精肉*2
  • 皮、脂肪、精肉で三層を成す扇形の三枚肉*3
  • 人参
  • ゴボウ
  • こんにゃく

これを下拵えした後、味噌と砂糖で煮ると、こんな感じになる。

味は……イルカ味だわな。うんw
イルカ+味噌味が染み渡って、歯ごたえ以外ほとんど全部同じ味の煮物になってしまうので(^^;)


下拵えが不十分だと臭み*4が出るので、じっくり時間掛けて煮込むのがコツらしいのだが、その煮込んでいる最中というのは猛烈に臭いため、沼津人でも苦手な人はかなり苦手だし、「イルカは好物」といううちの老父なども「でも煮るのは厭」と調理は老母に押しつけていたw
うちは家族がみんなイルカ大好き*5だったので、老母は僕らが幼い頃からボヤキながらもしばしばイルカを煮ていた。


昔書いたコンテンツや動画などでもたびたび触れているネタだが、子供時代に家族で水族館に行ったことがあった。イルカの曲芸を興奮気味に見る僕と弟の背後で、母親が父親に、
「ねえお父さん」
「なんだ」
「あのイルカ」
「うん」
「お肉何人前あるのかしらね」
「そうだなあ。130人前くらいかなあ」
……とまあ、そんな会話をしていて、「イルカは可愛くて賢くて美味しい」という刷り込みが確定的にw

幼少時の記憶ではイルカの旬は真冬だったかと思う。
水揚げされたイルカが100本近くも並べられた様は壮観だった。僕の記憶にあるイルカは、1本が2mあるかないかくらい、大きいもので2.5mは超えないものだったと思うが、身体は全体にねずみ色で歯鯨類の特徴であるクチバシがあったので、あれはスズメイルカではなくてバンドウイルカだったのかな、と思わないでもない。ただ、黒いものもいたのでマイルカの群れに当たったときもあったのかもしれない。
イルカ漁のある冬場は魚屋だった親父の出勤時間が異様に早く、早朝1時*6には魚河岸に出張っていっていたのを覚えている。


魚河岸勤めをしていた親父は年末からイルカ漁が一息付く2月くらいまではてんてこ舞いの忙しさで、夜7時くらいに帰ってきては真夜中に出勤するためにすぐに寝てしまう。
このため、バイトなどを始めて帰宅が遅い時間になった高校時代などは、同じ家に住んでいるのに*7ほとんど親父と顔を合わせない、というような時期すらあった。
魚屋は朝が早くて夜(店じまい)も早い商売で、思えば今の僕の宵っ張りな仕事とは真逆のような気がする。家で商売をしていたわけではないので家業というのとはちょっと違うけど、イルカのシーズンになるたびに「僕に魚屋は無理だなあ」と思っていた。


親父は何年か前に完全に引退して今は魚河岸には通わなくなった。
ので、「魚河岸勤めならではの恩恵」からは縁遠くなったし、実家住まいの頃や上京後も親父現役の頃の「魚屋の息子」であるが故の恩恵は絶えて久しい。
沼津港の拡張工事の折りに、イルカの骨を処理する施設が撤去されてしまったとかで、川奈など伊豆の漁港の漁船が獲ったイルカが、沼津港に水揚げされることもなくなったのは大変寂しい。*8
縄文時代の遺跡からイルカ型土偶が出土、というのは確か中学高校の頃に地元史か何かの資料でしばしば見かけたもので、南伊豆あたりの話だったと思う。今も静岡伊豆のイルカ漁は川奈、稲取あたりが中心だと思うのだが、そのくらいには歴史は古い。*9
おかげでイルカを食べる機会も前よりずっと減った。
小田原や秦野など伊豆に近い神奈川西部の人は、地産食材ということで今も手に入りやすいんじゃないかなと思うけど。


そういうわけでイルカの味噌煮。
半分はパーッと食った。
もう半分は冷凍したので、ちまちま食おう。大事に食おう。
故郷の味。懐かしい味ですので。

*1:資源数は豊富で、日本では二個群がおり、現在は年間水揚げ量を自主管理して獲得しているけど、御多分に漏れずやたらと自粛要請や禁漁要請が海外から来る。

*2:たぶん肋のとこ

*3:黒いのは背中側。白いのは腹側で、くにくにコリコリとした歯触り。イルカでいちばん美味いのはここ。

*4:魚類を餌にする海獣類全般に言えることだが、海獣類の肉というのは餌にしている魚の生臭さと全身運動のため前身を駆け巡る血(=ヘモグロビン量)の多さからくる血生臭さが強い。前身がレバーみたいなもんで、よほどしっかりと血抜き&下拵えをしないと美味しくない上に、歯ごたえもゴムゴムして硬いものになってしまう。

*5:味がw

*6:というか深夜

*7:別に仲違いをしていたわけでもなないのに

*8:今は清水や焼津のほうに水揚げされるとかで、静岡市のほうが食べてるかもしれない。

*9:よく、「機械式近代捕鯨や追い込みイルカ漁が始まったのは大正以後だから日本古来の伝統ではない」という式の反論を見かけるのだが、混獲や銛付き、寄りイルカを含めた伊豆のイルカ食文化そのものは数千年くらいの伝統はあるんじゃないですかね?