弁護士を呼んでくれ!

ジャーナリストの烏賀陽弘道氏が、自転車で信号待ちしていたら「俺のベンツに唾を吐いただろ!」と後ろから引きずり倒され、駆けつけた警官に烏賀陽氏のほうが被疑者扱いされた、というようなことがクリスマスにあったらしい。
詳しくは、

ジャーナリスト烏賀陽弘道さんが体験した警察の横暴
http://togetter.com/li/82613

とか

ジャーナリスト烏賀陽弘道さんが体験した警察の横暴 に対する違和感ほか ポジショントークにご用心
http://togetter.com/li/83039

とか、いろいろ出てるのでそのへんは関連togeを辿って貰うとして、この話の要旨は、

  • 自分が被害者になったときに、警察は被害者の味方をしてくれない(可能性がある)
  • 事件の初動段階(情報が錯綜している段階)では、被疑者と被害者はしばしば入れ違いされることがある
  • 初動段階で被害者が身を守ろうと思ったら、自分で動かないとならない(情報錯綜段階、被害者を特定できない段階では守られない可能性がある)

だいたいそんなとこだろうと思う。

落合弁護士のツイート  「おれは違う」110番通報した弁護士を警官が取り押さえ、その隙に刺され死亡した件 その後
http://togetter.com/li/83022

秋田で、トラブルに巻き込まれた弁護士(被害者)が、到着した警察官に犯人と誤認されて取り押さえられ、その隙に犯人に刺殺される(結果的に刺殺しやすいように警察官が被害者を取り押さえてしまった形)、という事件があった。
これもそうなんだけど、警察官が現場に到着した直後、「誰が加害者で誰が被害者か」が把握されていないときが、被害者にとって一番危険なんだろなーと思う。


そこに犯人がいて、まだ事件が進行中で、しかも犯人の行動の自由が奪われていない(逃走する可能性よりも、攻撃をやめない可能性のほうが危険)場合、第一にしないといけないのは、状況にあっての彼我の識別だろうと思う。
でも見ず知らずの警察官が現着したときに、真っ先に訴えないといけないのは、
【自分が被害者である】ということじゃなくて、
【あの人が犯人です!】ということなんじゃないかと。
危険の排除ということを考えた場合、状況が収集される前の警察官は「被害者の楯になる」よりは「被疑者(犯人)を取り押さえる」ほうを優先するわけで、警察官に最初に与える情報は【自分(被害者)を守れ】【被害者を識別しろ】ではなくて、【加害者を拘束しろ】だろうかと。
もちろん、この優先順位は時と場合によって変わる。

  • 加害者と被害者が同じ場所にいて、被害者が命に関わる怪我をしている(一刻の猶予もない)場合は被害者の救命活動が先。だが、その場合は警察と同時に救急も呼ばないと。
  • 加害者と被害者が同じ場所にいて、被害者に命に関わる怪我がない場合は、【犯人の特定、指名】を最優先に。
  • 加害者は逃亡した後で、被害者が命に関わる、または何らかの怪我(出血を伴う)をしている場合は、被害者の救命活動が先。警官は通常、ツーマンセル以上で行動するので、一方が被害者保護、もう一方が加害者追跡になる。

その場に最初から居合わせていない警察官に、初動情報を与えるには【助けて! 自分は被害者!】ということの宣言じゃなくて【あの人が犯人!】と、矛先を犯人に向けることなのではないか。


で、それでも運悪く被害者/被疑者が取り違えられた場合、心当たりなく犯人と誤認された場合。
思うに、過去に裁判沙汰、訴訟沙汰を経験したことがなく、法務関係が不十分な企業に勤める一般人、自営業者、学生などの多くは、弁護士との接点ってまったくないのが普通なんじゃないかな、と……。
「弁護士を呼んでくれ!」と自分を守ろうにも、守る手段がない。
実は、これが一番危ないというかヤバイことなのではないのか、と……。
先の烏賀陽氏の場合、少なくとも当人には直前まで別件*1で依頼をしていた弁護士がいて、その弁護士と即座に連絡を取ることができた。その結果、警察からの取り調べ(被疑者扱い)について若干の改善がされたが、そういうことでもなければ「すぐに連絡を付けられる掛かり付けの弁護士」なんか、普通の人はいない。


例えば、この後ラーメンを食べに出掛けました、その道すがら、いきなり誤認逮捕で拘束されました――となったら、咄嗟のこと過ぎて自分の権利を守る術はまったく思い当たらない。
だって、心当たりなく拘束されたときに、警察で何をしなきゃいけないか、何をしていいか、誰に助けを求めればいいか、なんてわからない。
よくテレビなんかで「弁護士を呼んでくれ!」とあるけど、アレだって「心当たりの弁護士がいるから呼んでくれ」であって、心当たりがなかったら呼びようがない。
国選弁護士とかそういうのは取り調べも済んで送検され裁判になってからの話で、警察に拘束されたその日から弁護士が付くわけでもない。
「今この瞬間、何かのトラブルに巻き込まれた」という咄嗟の時、もしくは【今、警察にいるんですが、どうしたらいいですか?】と相談できるような弁護士のアテというのは、ないなあ。
知り合いでそうした苦労をされた方などからたまに「いい弁護士がいるから紹介しようか?」とお話をいただくことがあるのだが、平時、苦労も困ったりもしていないときは、「ありがとうございます、そのうち困ったときは是非」とは言っても「では今すぐ」とはならない。


無駄になってもいいから、携帯の電話帳登録の中に「弁護士事務所」の電話番号のひとつくらい、登録しておくべきなのかもしれない。
でも、飛び込みで初見の客から「すみません、今警察からなんですが」で受任してくれる弁護士事務所ってどんだけあるんだろう。
なさそうだなあ。


トラブルが事前に予見されるときは準備もできるけど、準備できない不慮のトラブルについては、「1/1000以下の確率で起きない」ものであっても「1/10000以上の確率で起こる」可能性を否定できないわけで、何もないときから備えておくのって、なかなかできない。
この話題も「自分がそんな目に遭ったら怖いね」「気をつけよう」とは思っても、結局何の備えもせずにいくんだろかな。

*1:オリコンと揉めていた