計画停電の今後

市井の情報収集などしていると、ネットでも街中でも繰り返し囁かれているのが「停電はいつまで続くのか」。
これは、個人の日常生活だけでなく、企業の事業活動にも直結する話。


最初に断っておくけど、この稿で述べる話は【考え得る限りの最悪】を想定している。そうなったら困るけど、そうはならないかもしれない。しかし、何も手を打たなければそうなる。
そのとき、我々は何らかの決断を迫られるよ、そのための前提と選択肢を理解しておくほうが良さそうだ、ということに関する覚え書き。





【夏場のピーク需要6000万kw、冬場5000万kwに対して現在の供給能力は3500万kw】

夏場の東京のピーク需要が6000万kw、という数字の裏付けを探していたのだが、47ニュースの2007年の記事にこうあった。

この夏2番目の電力需要に 東電、供給の正念場続く
http://www.47news.jp/CN/200708/CN2007082001000635.html

柏崎刈羽原発が停止し、電力供給に不安を抱えている東京電力の供給地域で20日、最大電力需要が5938万キロワットと、この夏2番目の多さを記録した。お盆休み明けで工場などの稼働が本格再開したためで、猛暑が続けば8月いっぱいは供給の正念場となる。
 東電によると、東京や神奈川などの供給地域での電力需要は午後2時から3時に、この日のピークを記録し、10日の5951万キロワットに次ぐ多さとなった。この日は6170万キロワットの供給力を確保していたため停電は起きなかった。
 東電は24日までの最大電力需要を6000万キロワットと予測。この期間の供給力は平均6265万キロワットにとどまり、供給余力は265万キロワットまで下がる。さらに25−31日には供給余力が149万キロワットまで下がると予想している。東電の経験則では猛暑時には気温が1度上がると電力需要が170万キロワット上昇するため、供給は月末にかけて綱渡り状態が続く。

こちらは最新のソース。

東電の発電能力、震災前7割に回復へ 2火力再開で  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819696E3EBE2E1E28DE3EBE2E1E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2

 東京電力の藤本孝副社長は19日、東日本大震災で停止した東扇島火力発電所川崎市)を3月中、鹿島火力発電所茨城県神栖市)を4月中に全面的に運転再開する見通しを明らかにした。他の火力発電所稼働率も引き上げる。4月末までに発電能力を現状より2割高い約4200万キロワットに増やし、震災前の約7割に回復させる。ただ需要が拡大する夏場の水準にはまだ届かない。

 地震で停止した東電の発電所は福島第1、第2原子力発電所(計900万キロワット強)と、東扇島、鹿島、広野(福島県広野町)、常陸那珂(茨城県東海村)の4カ所の火力発電所など。このうち、東扇島の発電能力は全体で約200万キロワット、鹿島全体で約400万キロワット。2つの火力発電所が全面的に再稼働すれば、合計で約600万キロワットの発電能力を上積みできる。

 東電は稼働中の火力発電所設備でも定期点検の期間短縮などで設備稼働率を引き上げる考え。ガスタービン発電設備の調達も進めており、電力不足解消のため、火力の発電能力を積み増す。

 東電の被災後の電力供給能力は他社からの受電分も含めて約3400万キロワット。火力発電所の再立ち上げなどが進めば、供給能力は大幅に増える。しかし広野と常陸那珂は需要期の夏までに「復旧できるか今のところ分からない」(藤本副社長)という。

 東電は通常、冬場で5000万キロワット、夏場で5500万〜6000万キロワットの電力供給力が必要。電力不足を完全に解消するには時間がかかる見通しで、東電は「夏には東京都の千代田、中央、港の3区を除く20区でも本格的に計画停電を実施せざるを得なくなるだろう」としている。


猛暑の2007年、午後二時のピーク時に5938万kw。東電は6170万kwを確保して停電を防いだ。この辺りの記録が、「夏場の電力需要、一日6000万kw」の根拠になると思う。
冬場は暖房機器需要があるので、これが1割前後減少して5400〜5000万kwくらいになるらしい。

現在の東京電力の供給力は、全量の1/3ほどを喪失して3500万kw程度、と言われている。福島第一、第二の喪失よる電力減は大きい。


冬を終えて春に向かう今は、年間でも電力消費量が落ち込む時期と言える。暖房も減り、冷房を使うほどでもない。
だが、いずれ夏は来る。
計画停電、節電ではごまかしきれない夏が。



「昔のような暮らしをすればいい」
という声はあちこちで散見されるが、現在の日本の、というか都市の住宅は、エアコンがよく効くように作られている。気密性がよく、そして風通しが悪い。
というより、本来風通しを本気で考えて家を建てていたら、今ほど多くの住宅を都市に集積することはできなかったと思う。
西と東に窓を作り、そこから風を通し、南から日差しが入る。
当たり前のようでいて、そうした条件がきちんと整った住宅は、東京には多くはない。窓を開けたら隣家の壁、なんてのはザラだ。
風の通りが考慮できない立地条件だからこそ、家の気密性を上げて空調=エアコンによってそれを補うように発展したのが現代の住宅だ。
今更、エアコンを止めて窓を開けただけでは風など入ってこない。


また、事業者、企業も、一般個人も、パソコンとは無縁ではいられない。デジタル家電液晶テレビ、冷蔵庫、いずれも電気を食う。
冷蔵庫に関しては、気密性・断熱性が非常に優れているので、停電期間中もドアさえ開けなければ(二時間程度なら)極端に冷気が逃げることはないらしい。


テレビは消せばいい。むしろ消したほうがいい。
どうしても必要な情報は、速報性・正確性の双方ともに、テレビである必然性は少ない。


でもなー。
僕は夏生まれなので暑さには強い方、という自信があるけど、自宅で仕事してるとどうしてもPCを冷やさないとならない。液晶モニタも熱風を出す。過去、PCの熱暴走は何度か経験しているのだが、あれって熱でHDDが膨張する(伸びる)ことで、「書き込んだときと読み出そうとするときのタイミングがずれる」ということが起こるらしい。
昔よりはマシになっているはず、とはいえ、PCは「冷やし続けながら使うもの」である点は、時代が移ろっても変わっていない。
企業の活動にPCが不可欠である以上、省力化・省電力CPU搭載、小型化……されても、モニタ排熱をひっくるめた熱、電力消費の縮減には限界がある。


そんなミニマムな話に限らず、製造業も電力使う。
しかも、企業だって別に今まで野放図に電力を無駄遣いしてきたわけではない。今回の節電とは無関係に、節約、節電、効率化を重ねてきている。この上、「従来の1/3の電力消費の節約」を強いられたら、それこそ工場ならラインを何本か止めて、社員を整理するしかない。
企業が事業継続を考えるなら、そうするか、もしくは製造拠点を東日本以外に移転するか。
手っ取り早く西日本への移転ならまだしも、海外への移転というのも視野に入るかもしれない。
法人税は減り、給与所得者は減り、節電と合わせて消費は減り、税収も減るから復興も遅れる。


電力消費が抑えきれず、というよりも、電力供給力が回復しなければ、そこまでのことが起こり得る。



電力供給力の回復については、数日前にもちょっと思考実験してた。

原発は今後新造が難しくなる。
火力発電は電力価格が上昇する。
風力発電は非効率。
水力発電はダムの増量に時間が掛かる。
地熱発電は大電力を供給できない。
潮汐発電は12メートルの潮汐差がないと発電できない。

個人的には水上/海上原発を推すが、それだって実現は難しい。
将来的にはメタンハイドレート発電が有望だろうけど、今すぐ予算突っ込んで始めたとしても、事業として安定供給できるプラントを建設、運転できるようになるまでに、最短でも10年、最長で30〜50年という予測もある。
それまでの間に既存の原子炉も炉齢の終焉を迎え、順次廃炉になっていく。

燃料単価と発電所の専有面積あたりの発電量を考えると、既存の原発と同等以上の発電源は難しい。


「原子炉の新造が無理なら、脱原発して――」
そう気軽に言う人も多いが、その見返りが製造力の低下、電力価格の上昇、経済力の低下*1と、結局の所全てが我々に跳ね返ってくる。


少なくとも、この計画停電は今後3〜5年は続くのではないか、と思う。
福島第一、第二原発が安全に閉鎖、廃炉になったとしても、それに替わる電源はどこにも約束されておらず、LNGを燃料とする火力発電が復活しても、従前の電力供給量には届かないためだ。
新たな火力発電所の建造が決まったとして、そのコストは電力価格に跳ね返る。国が負担したとして、その建造費は税金に跳ね返る。
電力価格と税金、そのどちらをも拒否するなら、電力不足状態を受け入れるしかない。


現行の節電と計画停電は、あくまで「繋ぎ」である。
が、この繋ぎは恐らく長引く。
これ以上長引くのは嫌だ、困る、ということになったときに、我々は目前の問題としての幾つかの選択肢を提示されると思う。


1)それでも原発を新たに作るのか、
2)それに替わる夢のような何かが出てくるのを今後も待ち続けるのか、
3)これまでの生活レベルを捨てるか、


まず、(3)は恐らく無理だろうと思う。
(2)は単なる思考停止、選択の先送りに過ぎず、先に送れば送るほど事態は深刻になる。全国で稼働中の原子炉は、我々と同じように毎年1歳ずつ歳を重ねていくのだから。
結局(1)を受け入れるかどうか、という選択肢になるだろう。
LNG火力発電も、計画節電と同程度の繋ぎにしかならず、抜本解決にはならないためだ。


仮に、今すぐ新しい原子炉をオーダーしたとして、そして仮に年内に着工できたとしても、竣工して運転を始めるのは最短でも3年後。
つまり、どういった未来を迎えることになるにせよ、この節電生活+計画停電は今後最低でも3〜5年は続くのではないか、という結論になる。


もちろん、関東圏3000万人のライフスタイルをがらりと変えるような、画期的な節電グッズや、微少発電・自宅発電などが普及する可能性はある。
ピンチをチャンスに変える、ピンチこそがビジネスチャンス、ということで、現状以上に省電力製品が普及する可能性はある。
例えば、液晶テレビがLEDテレビになる、とか、照明がLED照明に急速に切り替えられていく、とか。
LEDに限らず、例えば家庭用太陽光発電が急速普及とか。*2
社会工学的には、サマータイム制の本格導入とか。というか、夏に限らずライフスタイルを2時間前倒し、とか。


脱原発を訴えつつ、電力の安定供給と、生活の質の向上を同時に成立させたいと思っている人に問いたい。




では、【事業化可能*3な代替電源にアテはあるの?】と。


答えて。普通の人。

*1:例えば、バイト代の最低価格が時給450円くらになるかもしれない

*2:うちにも欲しくて前に調べたんだけど、うちの屋根の狭さだとほとんどメリットがないorz

*3:理論的、技術的に可能と、事業的、政治的に可能は違う。事業的に可能=収益を出して設備の維持、拡充ができるのが事業化可能。それができなければ赤字事業になる。また、住民の合意を取り付けられることが政治的に可能ということ。社会主義国家のような国家事業の強制は日本にはできないのだから。