生ラジオドラマ【悪筆怪談】と書き癖の話

長年、編集者として(そして最近は監修者としても)色々な作家さんの原稿に接していると、それぞれに個性……というより癖みたいなものがあるのだなあ、ということに気付くようになる。

例えば、長い話の場合は著者にとって慣れた(楽な)表現が頻出する。

  • 〜すると、
  • 〜ですが、
  • 〜妙な、
  • 〜という。

漫画などで、単行本の最初の一巻と3〜4巻目から最終巻までの絵柄が違っていたりすることがあるが、あれと同じでw、最初のうちはあれこれと線を試し、書き方を試しているものの、筆が乗ってくる或いは文章を書くことそのものよりも、伝えたい事柄そのもののほうに意識が集中してくると、最も慣れた線を無意識に拾うようになる。
文章で言えば、似た表現、自分の中で使い慣れたテンプレ化された表現を、つい使ってしまう。
これはボキャブラリが多くないが故に同じ言葉、同じ言い回しを多用してしまう場合と、自分にとっての決め台詞、心地よいとっておきの表現であるが故に、とっておきを多用してしまう場合wの二つが考えられるが、どちらも読者にとっては【またそれかよ!】という飽きを誘発してしまうので、あまり良い印象は与えない。


また、短い話を何本も書き連ねる実話怪談の場合、「話の〆」或いは「結びの一行」がテンプレ化してくる。
多いのは、下のような事例。

  • その後のことは杳として知れない。
  • と言って、力なく笑った。
  • 今はもう分からない。
  • 今は取り壊されてしまっている。
  • 今も残されているという。
  • と言って、グラスを置いた。
  • と言って、グラスを呷った。

など。
実話怪談の場合、体験者に取材するシチュエーションが似通っていること*1、過去の体験を記憶から掘り起こして貰っているが故に、現況が分からないことが多いことなどから、やはり「またその結びかよ!」という定番の結びが多々登場する。*2
一定の傾向の話の好みは書き手によって異なるが、例えばサイコ系怪談が好きならどうしても結末は似通ったものになってしまうし、耽美系、呪い系、お笑い系など、それぞれの著者の嗜好に偏った体験談が「これを是非」とピックアップされるため、やはり〆の部分は似通ってしまう。
話の骨子がまったく違う話であっても、結びが似ているだけで「同じような話を読んだ」ような気分になってしまうわけで、ここはもうシチュエーション・ボキャブラリを山ほどストックして、少なくとも1冊の本の中ではなるべく重複しないように心がける、とするくらいしかない。


他にも頻用する修飾詞、ありがちな誤用などなどの話で盛り上がった際に、「そうした、やってはいけないこと*3ばかりを駆使して文章を書いたらどうなるだろう」というようなことを言っていたら、雨宮淳司氏が実際に「駄目な用法を多用して書かれた怪談」というのを作ってきた。
それが、「悪筆怪談〜と言ってグラスを置いた、という。」(竹の子書房)という、稀代の悪書wである。投稿、仕事に拘わらず、編集者としてよく見かける誤字・誤用の解説を付録として盛り込んだ、大変実用性の高い一冊に仕上がっている。竹の子書房から無償配信されているので、是非どうぞw


悪筆怪談 〜と言って、グラスを置いたという。雨宮淳司 編著
http://tknk.wwu.jp/?p=616


……で、本題はここから。
この悪筆怪談の本編は全8話から成る会話劇の体が採られている。


竹の子書房のリリース作品は、それぞれネットラジオでの放送を前提とした朗読劇(ラジオドラマ)化が進められているが、全般に10分前後の短編が多い。過去最長のものでも30分。また、登場人物もだいたい2人くらい。多くても3人。
が、「一度、長いのをやったら、もう何でもできるようになれるんじゃね?」と誰が言い出したのかは忘れました。

忘れましたが、この「悪筆怪談」をラジオドラマにしよう、という話が4月末くらいに始動した、と。


通常、竹の子作品の朗読は何を読むか、誰が読むかだけは指定されていて、その週のゲストが生放送でぶっつけ本番で読む、脇役をMCのサデスパー堀野氏*4がぶっつけで当てる、というパターン。
なかなか予定が合わないから、また録音したほうが噛んだりトチったりはなくてよいのだが、そんなマメなことができる人はいな(ry ……まあ、何事も勢いが大切ということで、そのほとんどがぶっつけ生朗読できたのだった。


生朗読なので出演者の都合が合わないと実現が難しくなる。
このため、登場人物も2〜3人以内のものが多かった*5のだが、悪筆怪談は全8話の中長編、登場人物もナレーター合わせてざっくり6人ほどいる。台詞も多い。また、「同音異義語の誤用」をネタにしたギャグが多いので、音声で聞くとわかりにくい小ネタも多い。


そこで、雨宮氏がラジオドラマ向けに原作を若干改稿して「耳で聞いてもネタがわかる」ようにシナリオ作成。

放送時間の都合で生出演できない出演者の台詞のみ別音声データで録音したものを用意し、他の出演者は全て当日生演技。

今回は企画が決まってから当日まで日数があるので、それぞれ個別に稽古する時間はあっただろうと思うのだが、たぶん現時点で誰も通し稽古とかタイミング合わせとかやってないと思う(行き当たりばったりです)。


全8話を4パートに再編して本番に臨むのだが、ドキュメントトーカで読み上げただけのバージョンですら、50〜60分近くある。これを人間が間を意識しながら演技していくと、60分は(たぶん)超えるだろうから、せめて15〜20分ごとに休憩を入れないとしんどい。
普段、朗読は番組の2パート目か3パート目、或いは放送終了後のオマケ放送として流されるのだが、後が何時になるか読めないので、今回は1パート目から放送。
竹の子書房広報部ラジオ課ラジオドラマ室は本気です。


なお、ネットラジオ竹の子書房ニョキラジMCのうちの一人、高田公太が主役格の一人を演じる。舞台で一人芝居をやったりしている人なので、演技力は心配していないが、放送に寝坊してくる、深酒してそのまま来ないなどの素晴らしい遅刻魔伝説が持ちネタ化しているので、主役格が【来ない可能性がある】w

これが恐らく最大のリスクなのだが、「あの役は高田氏じゃないと演じられないから」というディレクター判断で配役。


皆、それぞれに仕事・本業を持つ社会人いい年をしたオトナですが、なんかやる気満々らしい。
ギャラはどこからも出ませんが、〈面白そうだから〉という理由で皆やる気満々らしい。


サデとコータのニョキニョキ☆ラジオ・スペシャ
生ラジオドラマ:
悪筆怪談 〜と言って、グラスを置いたという。

2011年5月22日(日曜)夜22時から、生放送です。

http://jbbs.livedoor.jp/radio/19565/

ネットラジオ再生用URLは、放送当日、上記ニョキラジ掲示板或いは竹の子書房の以下のいずれかのTwitterアカウントでお知らせします。
@takenoko_shobo
@takenoko_radio
@takenoko_bot

*1:取材者によりますが、だいたい飲食店で聞くことが多いです

*2:これは僕にもあって、昔話として聞く話だとどうしても「今がどうなっているか分からない」、怪異側の意図が理解できないような通り魔体験談の場合「なぜそうされたかが分からない」などに繋がりがち。

*3:編集的に、或いは著者としての禁忌

*4:落研

*5:これは原作の都合でもあって、枚数が少ないので登場人物を沢山出せない。