ゲンダイ家宅捜索と出版不況
いろいろなテーマがいろいろと相互に繋がってる件。
「週刊ゲンダイに違法風俗の広告が掲載されていた」という事件で、ゲンダイ本社が家宅捜索を受けた。
これについて、「ゲンダイは政府に批判的、反原発推進だから見せしめにされたのだ!」という陰謀論があるらしい。
話はもっとシンプルだと思う。
金融不況と震災不況で不景気になり、娯楽に支出する人が減った。*1。その結果、風俗産業からの広告出資が減った。
タブロイド紙、週刊誌は、実売売り上げもさることながら、広告収入に寄るところが大きい。*2
そうなると、広告本数そのものも減ってくる。それならば、1本乗せるだけで広告収益の大きい所――つまり違法性の高い風俗の広告という、リターンも大きいけどリスクも大きいものに手を出してしまう。
ゲンダイの事件では現状では広告代理店の社長が「わかっててやった」ということで逮捕されているが、ゲンダイに家宅捜索が入ったのは「ゲンダイもわかっていて黙認していた=共謀していた」のではないか、という疑いがあるため。
違法風俗は暴力団と不可分であるケースが多く、そうした収益や広告費は暴力団の資金の移動と抵触する、とされる。違法風俗そのものの摘発と、違法風俗の宣伝への協力の双方から、ゲンダイはその片棒をそうと知っていて担いでいたのではないか、という疑いを持たれ、「そうではないなら嫌疑を晴らしなさい、抜き打ちの家宅捜索で証拠を持って行くよ」とまあ、そういうことになったんだろう、と。
今年に入って暴力団の排除がそこかしこで活発化しており、法的規制や既存法の徹底などが進められている。紳助の引退に始まる芸能界の浄化に留まらない。
特にそうした周辺と繋がりがありそう、またはそうした周辺を記事に、広告に、という最前線にいたわけだから、警察はそこまで読んで動くという警戒心は持っていて然るべきだったと思うし、その意味では陰謀云々というより「情報戦でマスコミが負けた」という見方をしちゃうけどなー、とか。
また、不況による娯楽産業の不振が広告収入を減らし、ていても、本業の実売部数が維持できていれば影響は小さいはずだが、本業の実売部数も下がってきてるんだろな、とは思う。
まず、「電車の中で読み捨てるタブロイド紙、週刊誌」の主要読者層は男性サラリーマンなのだが、若い男性読者はタブロイド誌、週刊誌から「携帯、スマホでネットの何かを読む」にシフトしている。ゴシップは相変わらず人気なのだろうが、そんなものは2ちゃんねるで足りる。新聞記事も同様だ。
読み物としての文庫本は「本は家で姿勢を正して読むもの」から「移動の合間にちょっとずつ読むもの」に変えたことで、戦後飛躍的に部数を伸ばしたが、その「移動の合間のちょっとの時間」というニッチな可処分時間は、文庫本ではなくて携帯、スマホによるネットアクセスに取って代わられている。内容がネットのどこかを読む、携帯ゲームで遊ぶ、どちらでも同じことで、「文庫本を読む」という選択肢は押されて縮小している。
「電車内でタブロイド誌や週刊誌を読む」人口のうち、若年層がそちらに入ってこなく成りつつあるというのは、このへんの文庫の事情と同じだと思う。
加えて、従来そうした記事需要を支えてきて、なおかつ「電車の車内で携帯でゲームをやる習慣がない高齢層」はどうかというと、じわじわと退職し始めている。
そもそもタブロイド誌も週刊誌も、駅かそこに行くまでのコンビニで買って、電車やその日一日の暇つぶしとして消費して捨てられるものだ。タブロイド誌や週刊誌を家に持ち帰り、保存するというところまでやってる人は、いなくはないけど少数派で普通は読み捨てる。
しかし、退職して通勤から解放されると、次第に「コンビニか駅でタブロイド誌を買う」という習慣そのものから離れていく。また、天寿全うで離れるケースもあるわけで。
そんなこんなで、「サラリーマンの通勤のお伴」というポジションで生きてきたタブロイド誌、週刊誌は、今後部数的に緩やかな死に向かうのは避けられない。故に、それを補うために広告依存を強める必要があり、リスクはあったけど違法風俗広告に手を染めていたのではないか、という冒頭の疑いに繋がる。
このへんの「ニッチな可処分時間の奪い合い」で挽回するために、「電子書籍」に期待が掛かってるのも確かなのだが、電子書籍は期待のされ方、供給者の思惑と、需要側のライフスタイルや環境がマッチしてないんじゃないか、とは思うんだよなあ。