訃報二題

ZARD坂井泉水が亡くなったらしい。
癌で入院中、病院の非常階段から転落(手摺に座っていて、ヨロリと)、脳挫傷による事故死とのこと。びっくりしました。
ご冥福をお祈りします。


松岡農水相が議員庁舎で首つり自殺とのこと。
松岡農相というとなんとか還元水に象徴されるところの政治資金不正疑惑が思い出されるが、「支出金について詳細にしなければならないという法律が未整備だった」以上、「法に則っており違反していない」という弁明もあながち間違いとは言えない。というか、松岡農相を違法としてしまうと衆参全議員の1/2〜1/3以上が大なり小なり違法に問われることになるはずだったのだが、松岡農相だけが批判の対象になったのは……まあ、政権内の閣僚だったからかも。


亡くなった人について誹謗だけを記すのは人としてどうかと思うので、バランスを取るべく*1政治家・松岡農相の生前の軌跡と業績について少し触れておく。


松岡利勝農相は、以前は野中広務衆院議員の懐刀で、当時のあだ名は「特高の松岡」。特高と呼ばれた由縁はその調査能力の高さで、一体どこから引っ張ってくるのか政敵のアキレス腱ともなる泣き所を抑えることを得意中の得意としていた。
小泉政権時代に野中広務から小泉総理の側に寝返り*2野中広務*3に引導を渡す手引きをしたのは松岡氏だった。
松岡氏はこうした政局の裏方的な活動が多い議員だったため、こういう政治の暗黒面を知る通称「黒松岡」な凄みを見せる一方で、「白松岡」とも言える政治家としての一面もあった。
以下は、農政政治家・白松岡の業績。


松岡氏は農家の出身で、元々農水族議員だった。が、農水相就任の演説にもあったように、従来の農政の基本であった「守りの農政*4」ではなく「攻めの農政*5」を唱え、農政改革に力を入れていた。高付加価値農産物の輸出は、小泉前総理が選挙演説でたびたび引用紹介しており、農政改革(農業再生)の主柱のひとつであると同時に、松岡農相はその重大な牽引役でもあった。
農家出身ということもあって、「単なる保護主義ではない、国内農業の復活」について理解のある農政政治家として、人手不足と衰退に向かいつつある農業・林野業の担い手からの期待は高かった。


この農政改革の背景には、農業就業者の高齢化(高齢化が進んでいるから農業耕機の導入が必要になり、また逆方向からのアプローチとして農業の法人化、株式会社化への動きが進められた)や、造林・里山の育成などなど、過保護なバラマキで疎かにされてきた農業を再生させようというポジティブな思想を理解する必要があった。
松岡利勝農相を理解するのに、黒松岡の側面からだけ断罪するのは不十分であるかもしれない。
もし松岡農政改革が安倍政権下で順調に進んでいったら、農政史に残る改革になっていたかもしれない。(だからこそ、清濁併せのむ小泉前総理が黒松岡というリスクを持つ松岡氏を麾下に納め、安倍総理もそれを引き継いだのだろうと思う)


松岡利勝
その生涯は波乱に次ぐ波乱の政治家であった。*6


ご冥福をお祈りします。

*1:そして、通夜の席では死人を貶めないという日本人の美徳に基づき

*2:なぜ黒松岡が白松岡に転じたのかは政界ウォッチャーの中でも謎中の謎とされているのだが、「野中広務の命令で小泉総理の身辺を調べたが、埃ひとつないことに驚いた。同時に「日の当たる場所で目指す農政をやってみないか」という総理の要請を受けて、黒松岡との決別を図ったのではないか、という説が濃厚。もちろんこれは想像の域を出ないのだけど、野中失脚の周辺に黒松岡の裏切りがあったのはほぼ間違いなく、野中失脚後に松岡氏の唱える攻めの農政を小泉前総理が重用した点、その後継内閣で松岡氏が閣内に入ったのは論功報償の他に、小泉前総理との約定だった農政改革推進のためではないか、という説も。

*3:野中広務は先に小泉前総理によってイチの子分だった鈴木宗男議員を失脚させられており、重要な手駒の一人だった松岡氏を失ったことも引退に追い込まれる一因だった様子。

*4:市場開放への抵抗や国内農業の保護など

*5:高付加価値農産物の輸出や、有毒農薬使用食材の輸入制限、日本食ミシュラン、食材トレース、ペットボトル茶の産地明記義務化などなど

*6:黒松岡と白松岡については、アクセス過多が収まったら松岡氏のホームページなどを参照すると驚くほど明らかなんだけど、野中広務の懐刀だった黒松岡時代の写真と、小泉前総理について表舞台に出てからの白松岡時代の写真を見比べると、人相がまったく違う。小泉前総理は総理就任以前は大言壮語の昼行灯、総理就任後は「総理大臣以外に適性がなかった政治家」という評を得たが、やはり立場や職掌が人を作り顔を作るというのはあるのかもしれない。ダーティな黒松岡の写真は人相も暗く、白松岡の写真はそれが演出であってにせよ驚くほど表情が明るい。未見の人は一度見ておいたほうがいいと思う。