居酒屋の黒板

居酒屋の店頭の黒板/ペイントボードの類というのは、「今日のオススメ」とか「今日のイベント」とか、そういうものを書くスペースだと思う。
居酒屋に限らず、その店の可変性の高い売りであったり、客の目を惹くべき何かが書かれているものなんじゃないかなと思う。
広告と違って一品モノだったりするわけなのだが、完全固定の看板と違って、その季節、その旬に合わせて字句やアピールすべき点が変わったりする。


でも、たぶん大多数の客はそれをじっくり見てないか、「あー、今日は7時までに入店すればビールが290円だな」とか、そのくらいの情報しか読み取らないし、そもそもそのくらいの情報しか書かれていない。普通は。


東長崎駅南口のマクドナルドの2階に「やるき茶屋」というフランチャイズ系居酒屋があるんだけど、その客引き看板に誰のものかわからん「夏休みの思い出」が書かれていた。
家族で海水浴に行くんだけど、行った先で自分だけ熱を出しちゃって、何泊かの家族旅行の間、両親はずっと自分の看病に付きっきりで、きっと兄はつまんなかっただろうな、1978年の夏。みたいな。うわっ、せつねー!
看板の裏を見たら、1980年の夏の話が書いてあったので、どうやら通りすがりの悪戯書きなどではなくて、店公認で誰かが書いているものらしいw
まあ、原油高の折、店としてババーンと押し出す目玉品がない*1わけで、その空いたスペースに「枝豆あります」と書くくらいならいっそ、という工夫なのかもしれない。
見落としがち、もしくはたぶん多くの人はほとんど見てないだろうけど、気付いた人は連れを引き留めてちょっとじっくり読んじゃったりするのかもしれない。そして、自分の1978年の夏を思い出してみたりして。


以前、居酒屋の壁に貼られたドリンクメニューに、「ビール」「焼酎」「ホッピー」「ウーロン茶」などに混じって「マテニ*2」という謎の飲み物名が貼られていた話を聞いて大いに爆笑したり納得したりしたのだが、同様の「多分ほとんど誰も気付いてないけど、さりげなく仕掛けられている罠w」というのは、意外にあちこちにあるのかもしれない。


そういや、千川通りの江古田と東長崎の中間あたりにある知る人ぞ知るラーメン屋「羅比人軒*3」の、入って左奥のカウンターの中央当たりに座ると、なにやら天井を見ることを促すような但し書きがちょこんと置かれている席がある。
「なんだこりゃ」と気付いて、思わず釣られて上を見たら天井に(ry
「何、アレ?」と店主に聞いたら、オヤジはニヤリと笑って、「だから上を見るなってんだよ(笑)」と(ry
見つけたから何か貰えるわけでもないし、それの存在を店側が積極的にアピールしているわけでもない、気付いた人だけが相通じ会える何か、みたいなものってのは、それに気付けると嬉しいもんだよな、と思ったりした。


テレビなんかで「次にこれが出ますので笑ってください」というテロップが出たりするけど、あのテロップが出なくても気付いて笑えたときが面白く、楽しい。落語を生で聞くとテロップが出ないのでw、集中して聞かないと笑い損ねるし、ただダラダラなんとなく聞くのではなくて「聞くつもりで聞く」という緊張感が養われる。
遺伝記の応募作を読んでいると*4、もの凄くわかりやすいというかあからさまな話がある一方で、すごくわかりにくいか、ツボになる部分をひっそりと隠してある話があったりする。
興味のない読者に親切という意味で言うなら、あからさまに書かれているほうが親切なんだろうけど、「こっそりひっそり、自分で気付いてくれればそれでokだし、そうでなかったら無理しなくてもいいです」的なものに「あ!」と気付けたりすると、なんだか妙な快感がある。最近はAHA感とか言われてるらしいが、教えられなくても気付いたことというのは、優越感を持って高く評価できるけれども、懇切丁寧に教えられたことは「畜生バカにすんな」という劣等感が伴うため、高く評価はし辛いというのかもしれない。
なんとも面倒な話だ、と思ったりした。

*1:そうでなくても夏は売りになる魚介が少なく、鰺とスズキとイカとアワビくらい。しかも、どれも旬にはまだちょっと早い

*2:マティーニのことと思われるが、それを出している店は定食屋を兼ねているような感じの一杯飲み屋系居酒屋だったらしい。

*3:ラビット軒と読むが、別に店主は元ヤンではないw

*4:ここで遺伝記に繋がりますw