すじすみ(1日目)

試作すじすみの経過メモ。
仕込んだのは11/29のAM2時頃。
使用した筋子の元の量は、240g強程度。
房からは解さず、そのまま使う。
が、元の状態が半分ほどに千切った形だったので、ほつれたところからイクラがぽろぽろと……。
キッチンペーパーの上に粗塩を撒き、その上に筋子を載せてまた粗塩を撒く。
まぶすというよりは「初雪がうっすらと積もるくらい」の感じで、みっしりと裏表に塩をする。
これをそのまま、2枚重ねしたキッチンペーパーで包む。
キッチンペーパーの外側からも塩をする。
で、これをジップロックではない使い捨てていいような(しかし清潔な)ビニール袋に入れて、一度冷蔵庫へ。
冷蔵庫内では、皿と皿の間に挟んで上から500mlのペットボトルを載せるなどして重石をしておく。


12時間過ぎたところでペーパーを変える。
袋の中はびしょびしょになっているくらい水分が出ているので、袋はここで用済み。
キッチンペーパーを剥いで表面に出ている水分を拭う。このとき、溶けと残っている塩は払わずにそのままにしておく。
新しいキッチンペーパーで包み直す。このときの包み方で完成時の型の7割が決まってしまうので、綺麗に包む。
包み直したら冷蔵庫へ。
一回目ほどには水分は出ないはずなので、清浄な皿の上に一枚キッチンペーパーを敷いて、その上に別のペーパーに包んだ筋子を載せ、上から皿を載せて重石。
うちではニセスミシリーズを作るときの定番のものがあるのだが、一般のご家庭では100均の小振りのアルミバット(オーブントースターの庫内に敷くような奴)を同じ大きさのものを2枚用意すると、型崩れしにくい。


さらに6時間(のべ18時間)過ぎたところで2回目のペーパー交換。
1回目に比べると水分抽出量はだいぶ少なくなる。この後は12〜18時間ごと、朝晩くらいのペースで様子見をして、ペーパーが湿ってきたら交換、というくらい。
最近の冷蔵庫は昔ほどではないにせよ、冷蔵庫内は割と乾燥気味なので、筋子と接しているところからペーパーに吸い出された水分は、庫内で乾燥していく。
乾燥しきれない水分はそのままペーパーに残り、腐敗の原因になるので、ペーパーが湿っていることに気付いたらまめに取り替える。


さらに6時間、約24時間経ったところで3回目のペーパー交換。
今し方やりました。
水分抽出量は2回目と比べてもやや少ない。まあ、6時間しか経ってないし。
ペーパー交換時にほぐれてしまっていたイクラ幾つかを味見してみることにした。


まず、特筆すべきは弾力。
寿司屋で食べるイクラというのは、あれは一度生の筋子から解したものを、醤油、みりん、日本酒などを合わせた漬け汁に漬けたもので、無加工のものより塩分が増えている。また、イクラは生のままだと割と小粒だったりしおしおしてたりするのだけど、漬け汁につけ込むことでたっぷり水分を吸ってパンパンに膨れあがり、口にしたときにあの独特の「ぴちゅん☆」と弾ける舌触りになる。これがイクラの醍醐味とも言える。
寿司屋のイクライクラ醤油漬けの味というのは、あれは半ば漬け汁の味でもあるわけで、生のイクラはねばっと油っこくて生臭いwばかりで、あの味はしない。一手間加えてこそイクラはうまいものなのだ、とわかる。
塩漬けされたイクラはというと……。
水分が抽出された分だけシオシオになるのではと思っていたのだが、見た目にはややくすんだオレンジ色ながらも表皮に張りがある。
指先で揉んでみるとやや強く押しても押し返してくるくらいの弾力。グミにも近い。
イクラの表面に融けきらない塩が粒のまま残っていたので、これは軽く水で流す。
水に晒しても弾力は変わらず。
口にしてみると、「ねちっ」「むちっ」とした食感。


こりゃおもしろい。


イクラ独特の「ぷちゅっ☆」という食感を期待して歯を当てると、それよりもっとしっかりした歯ごたえがあって、しかしゼリーやグミとは明らかに違う粘りけを伴う食感。
味は塩のみなのに、イクラ特有のあの魚卵感も損なわれていない。
口の中でとろっと消えていく。
イクラはどうしてもすぐにプチュンと消えてしまうので、その儚さ物足りなさから「量を食べたいという飢餓感」に苛まされるのだが、これは喩え一粒でも「イクラを食べた感」がガツーンとくる。
プリン体取りすぎ予防になるのではないかという気すらしてくる。
この歯触りは最近作ったタラスミや、本家本元のカラスミなどにも通じるところで、魚卵は丹念に水分を抜いていくと「ぬちゃぬちゃ」→「ぬちっぬちっ」→「もちっ」と食感が変わっていって、味噌漬けされた鶏卵黄のようになっていくのだが、これまで扱ったニセスミシリーズの中でも魚卵一粒当たりが最大のイクラ筋子ともなると、その食感の変化が分かりやすい形で如実に現れてくる。


明朝、30時間経過したところで、また様子を見てみたい。
恐らく、「どこで庫内熟成を止めるか」「いつ風乾に移るか」「日に当てるべきか否か」と、そのへんの見極めが難しいのだろうと思われる。
山猫軒では「筋子と天然塩のみ」という触れ込みで、日本酒は使っていないようだった。これは恐らく日本酒=醸造酒特有のアルコール臭を嫌ってのことだろうと思う。保存性を考えたら塩+アルコールが最強だと思うし、良い酒で仕上げができればそれに越したことはないんだけど、確かに酒は使いどころが難しいかもしれない。


まずは試作第一号。これで一回目から正解が出てしまったら、この道ン十年の職人が編み出した製法特許に申し訳が立たないというか、そんな簡単なものじゃないと叱られそうw
まあでも、「金が取れるほど確実にうまいのを、常に同じクオリティで」ということになったら話は簡単じゃないけど、「80点以上くらい」を「多少のばらつきがあってもok」でいいんだったら、手順さえ間違わなければご家庭でも「だいたい近いもの」は作れる。と思う。
スジスミ/イクラスミwは、売ってないことはないけど、おいそれとは買えないほど高い。
でも、作れば安い。


これは作るべきですよ奥さん。