カナシバリ

Twitterにはいろいろなことをする方々がいる。
つぶやき怪談といえば稲川淳二氏だが、140字怪談を呟き続けている@itoolsjp氏のような方もいる。
昨夜、高田公太氏がTwitterでこんな怪談を試していた。

高田公太@kotatakada

Yくんは生まれつき金縛りに遭いやすい。身体の硬直には慣れたが、その間、「カナシバリ」と連呼する女性の声がきこえるのがたまらなく嫌だという。「カナシバリ」はゆっくりと囁くような語調のときもあれば、金切り声で叫ばれることもある。どうも血筋のせいらしく、姉もよく同じ目に遭うそうである。

http://bit.ly/92prGx

実話怪談のエッセンスというものを損なわず、必要情報を入れ、しかし収まりきらない優先度の低い情報を、怪談の形が壊れないぎりぎりを見据えて削り込んでいく――「超」怖い話で言うところの引き算の怪談、体験談のダイエットというのを訓練していくための方法として、「超」怖い話にもQR「超」怖い話というものがある。こちらは150字*1
800字、500字など、字数を決めた試みは随分前から在るので目新しい試みではないのだが、せっかくなので僕も乗ってみた。
怪談は「伝播」することに意義がある。
人づて口伝てが怪談の真骨頂であろう。

加藤AZUKI@azukiglg

Y君はしばしば金縛りに遭う。「身動きできないのには慣れるんですよ。ただ…」手足の自由が奪われた後、耳元に女の囁きが聞こえてくる。『カナシバリ、カナシバリ、カナシバリ…』ゆっくり囁くときもあれば、金切り声で叫ばれることもある。「姉貴も同じなんです。これ、血筋なんですかねえ…」

http://bit.ly/9BPWcZ

「超」怖い話の記法の特色は、「体験者(=インタビューイ)が、取材者(=インタビュアー)の前にいる」というもの。これは「超」怖い話では三代目編著者の平山夢明氏が完成させたスタイルである。
それまで、体験者当人の告白型だった実話怪談が、樋口明雄氏の代で「体験者の体験を物語のように描写、演出する」という技法が編み出された。読者の立ち位置は、「体験者の肩ごし」になった。
平山夢明氏の技法では、読者の立ち位置は「体験者を前に取材中のインタビュアー」の視点、或いはそのインタビュアーの肩ごしになり、インタビューをしているその場に、まさに立ち会う、という錯覚を起こさせることで、より深い「体験者の実在性」を感じ取れるよう工夫されている。
樋口怪談がインタビュアーを廃して(厳密には、インタビュアーはカメラの後ろにいる)体験者と進行中の体験だけを描写したところから一歩進んで、平山怪談は体験談を語る体験者とそれを聞くインタビュアーをカメラの前に座らせ、それを見る読者をカメラの後ろに立たせている。取材に際して、「画面には映っていないディレクター」*2の立ち位置に読者を置いている。進行するインタビューに口を差し挟むことはできないが、「話そのものを聞き出したその現場に、自分も立ち会っている」という錯覚が、深い没入感に繋がる。

その方法論は培われてきた「超」怖い話の味として、リアリティを感じさせるよう機能している。
この方法論で「超」怖い話風にリライトされたのが上述のプチ甦怪版「カナシバリ」。


それをまた別の方が乗っていた。

痛田(3歳)@tuuda3

それを体質として片付けてしまうのは乱暴かもしれない。とはいえ彼ら姉弟でなくともこれは厭だろう。夜中。目が覚めると、身体が動かないことがある。これは体質の一部だ。次に、耳元で女の声がする。時にはか細く、時には叫ぶように。声はただ、こう繰り返す。カナシバリ、カナシバリ、カナシバリ……

http://bit.ly/ddYU3j

@tuuda3氏のものは、同じ高田版、加藤版を踏まえてさらに語り直されたもの。
三人称視点で描かれ、台詞やモノローグに相当する部分は一切廃されている。しかしそれでも、オリジナルの「カナシバリ」のエッセンスは損なわれていない。


この「カナシバリ」というお話の要素は、

・生まれつき(体質として)金縛りに掛かりやすい人がいる(仮名はY君)
・金縛りに遭うと同時に、耳元で女の声で「カナシバリ」と繰り返すのが聞こえる
・姉も同じ体験をしている

というものから来ている。この要素を盛り込みつつ、140字以内に削ぎ込みつつ、元の話を知らない人にも話の要点が分かるようにリレーする。
Twitterはそういう「口承怪談の伝播」という試みにもマッチしていておもしろいと思う。

とりあえず、ハッシュは#sokaiにしてみた。
ついでに経緯をトゥギャってみた。


Togetter - まとめ「「カナシバリ」という怪談を次々に口伝リレーで伝播させてみた」
http://togetter.com/li/28304

*1:QRコードに入れられる文字数制限のため

*2:水曜どうでしょうで言うところの藤村Dはカメラの後ろにはいるがインタビュアーに近く、この場合の読者の立ち位置はカメラを回す嬉野Dに近い