金魚

前日エントリーのコメント欄で僕と有袋類が触れている「金魚」というのは、事務所の庭(と言い張っているスペース)に置かれた水槽の金魚のこと。


今から10年以上前に、「路上に捨ててあったので拾ってきた!」という経緯でまず空っぽの水槽が持ち込まれたのが発端。
とりあえず……ということで水も張らずに庭に置きっぱなしにしておいたら、いつの間にか雨水が溜まっていた。
水が溜まってきたら、今度は藻も湧くし蚊も湧く。というかボウフラが湧く。
蚊が湧いて厭だったら水槽の水を抜いて伏せればいいのだが、ボウフラ対策のために金魚を買ってきて入れた。
金魚と言ってもデメ金とかそういういい金魚じゃなくて、所謂餌金。
一匹10円くらいで売られている、アロワナなんかの餌になる雑金魚。
金魚すくいで一匹もすくえなかったときに、テキ屋の兄ちゃんが袋に入れてくれるアレだ。
最初に何匹入れたのかはもう覚えてもいないのだが、何匹かは入れた。


で。
普通金魚と言ったらマメに水を換えるとか、ブクブクと泡を立ててやるとか、水槽の掃除をするとか、ちゃんとすべきものなのだと思う。アパートの管理人さんの水槽(趣味は金魚)もそんな感じで真面目に世話されてたし。
が、庭の金魚は別に世話をするでもなく、落ちてくるボウフラをただつつくだけ、水槽の藻を食むだけという状態で、水も替えられずに放置されていた。
一時期、完全に失念していて、1年近く手つかずだったこともある。


気がついたら、まだ生きてた。
しかも2センチくらいしかなかったちっこい餌金が、ちょっと成長してる。
でも、水槽の水は相変わらず替えず。雨が降ったらあふれ、日照りが続くと減る。
ときどき近所の野良猫が水を飲みに来ていたが、金魚が捕られるということもなかったようだ。
一時期、庭に大葉(青紫蘇)を生やしていた時期があった。
大葉を何かの幼虫が食うので、それを見つけると摘んで水槽に投げる。
そうすると金魚が幼虫をパクっと食う。
夏の朝なんか、毎朝虫をとり毎朝水槽に投げてたこともあった。
それでまた、ちょっと大きくなってた。


途中、仲間が一匹もいないのは寂しかろうという理由で、金魚すくいで手に入れた金魚を足した。二回ほどそういうことがあったような気がする。
足した金魚はしばらくは生きているのだが、気がつくと共食いで減っていたり、浮いていたり。
小さい金魚は、ヌシになってる大金魚の餌になっちゃうらしい。これも世の習いか。
結局、いつも生き残るのはヌシの大金魚。
そういえば、金魚っていうのは10年とか15年とか平気で生きたりもするらしい。
ただ、そういう長寿金魚っていうのは、大概が「そういえばこの濁った水ん中に金魚がいるのをときどき見かけますが、特になにもしてませんねえ」というずぼらな飼い主による放置状態に置かれた、いわゆる野良金魚に多いようだ。
事務所の金魚も半野良みたいな感じだったなあ。


この6年ほどは、事務所番の有袋類が金魚の餌を与えて餌付けしていた。
有袋類が庭に出ると、サッシを開ける音を聞きつけて金魚が水面近くまで上がってくるというレベル。餌付け成功。
金魚というか魚というのは、食えば食っただけ成長するものらしく、一説には「樹木と同じで条件さえよければいくらでも生きる」とさえ言われている。金魚としては大して価値があるわけでもない餌金は、本来はすぐ食われる宿命だから長生きさせようとは誰も思わないのかもしれないが、飯を貰えて環境がよかったせいなのか、10数年、たぶん12〜3年以上は生きてる。
生きてきた。


最終的に10cmくらいまで大きくなった。
ボウフラ掃除機として連れてこられた2cmの金魚にとって、猫や鳥が水を飲みに来る雨ざらしの水槽が世界の全てだった。冬場、雪が降っても水槽に氷が張っても、夏場、塀の影に合ったとはいえ煮えるように熱くなっても、それでも金魚は生き抜いてきた。
そして――ついに死んじゃった、というのが昨日の報。


大往生だと思うのだ。この金魚は。
よく生きたと思うのだ。餌金にしては。


あの水槽、いっぺん洗うか。
それとも、あの水槽のあの環境だからこそ金魚はのうのうと長生きして来れたのか。
なんか、たぶんずぼらであったことが金魚を永らえたんじゃないか、という気にもなってきた。
また金魚を入れるかどうかは、ちょっと考え中。
でも入れるとしたら、また餌金がいいな。
観賞魚の中でも最も安くて、他の高い魚に食わせるために繁殖させた、あんまり期待されていない金魚。
「ここに連れてきてもなんにもしませんけど、他の魚に食べさせたりもしません。後は生きたいだけ生きてみてください」


そして、ときどき覗かれて「あ、いるな」と安心されてみたりする。
そういう金魚のような存在を、なんとなく羨ましく思ったりする今日この頃。