オイルマッチと大人の権威と喫煙の話とか

最近はめっきり出掛けることが減ってきたけど、その昔はアウトドアが好きな人でした。
なので、とにかく「火を付ける道具」というのが好き。いろいろな仕組みのものには特に惹かれる。


使ってないオイルマッチが出てきた。ふたつもorz
ひとつは確か弟からもらったものだったかと思う。無印。
ひとつは自分で買ったもので、Zippoのもの。これに、折りたたみナイフが付いていて、やっぱりナイフ関連のあれこれがうるさくなって持ち歩かなくなった。それ以上に使いにくいので持ち歩くのやめたw


オイルマッチというのは、タバコを吸わない人にはピンとこないかもしれないが、オイルライターとマッチと火打ち石の中間的存在と言えるもの。
タンクボトル(本体)の中に差し込んである金属の棒を、タンクボトルの横に付いているマグネシウムにこすりつけることで火花を散らして発火する、という仕組みになっている。
金属の棒はパイプの中に綿と金属棒を仕込んだもので、タンクボトルに染みこませた燃料*1を金属棒の綿にも染みこませ、火花を引火させて火を付けるわけだ。
タンクボトルの容積がZippo以上に小さいため、すぐに燃料が切れてしまうという、着火用小道具としては致命的な弱点があるのだが、マッチを擂る動作で火が付く、最悪燃料が尽きても、火種があれば着火の用を足さないこともない*2ということで、お好きな方はいたりするかもしれない。


この手の着火用小道具は、ガスライター、オイルライター、オイルマッチ、マッチなどなどいろいろあり、またガスライターはフリントライター、ターボライター、電子ライター……とこれまたいろいろ細分化する。
最近は百円ライターと言われるものにも、フリントライター、ターボライター、電子ライターの全種類が揃っていたりする。
百円ライターは燃料の残量が外から見える、着火が楽で故障が*3少ない、なくしても惜しくない、などなどいろいろメリットが多い。いずれも「火を付ける」という目的に特化し、機構の単純化*4、コストダウン*5などを経て今の普及品に繋がった。
が、行き渡ってみたら今度は喫煙人口が減って需要が減ってみたり、子供にも容易に扱えるようになって火災原因として指弾されてしまったり。


オイルマッチは着火にコツがあって、火花が散るだけで火が付かなかったりすることがしばしばある。*6
Zippoのようなフリント式のオイルライターは、ドラムを指で回して不倫とを擦って火花を出すのだが、アンティーク……というか一昔も二昔も前のZippoは今のものよりずっと火が付きにくかった。というか、子供の握力程度ではドラムが回らなかったりした。大人なりに体得したコツと大人の体力がないと扱えない「大人の道具」であったわけだ。


先だってしょーこっさんとタバコ談義になった折に、「大人*7のシンボルが次々に悪役として駆逐されてしまっている」というような話が出た。タバコ、酒、新聞などなど。
特にタバコなんかはその筆頭として、世の中から消え去りつつある。


昔はタバコというのは「大人の権威」「大人の象徴」という記号の役目を果たしていた。
子供は吸ってはいけないもの、吸っても価値がわからん、何が嬉しいのかもピンとこない、というようなもので、しかしそれを嗜む大人というのは「子供に分からない世界を識っている」と見られ、また「タバコを吸えるようになったら一人前」というか、大人になった証みたいな小道具としても使われていた気がする。


タバコでアニメ・マンガ(または童話)と言えば欠かせないのがサザエさんwとムーミンかな、と個人的には思う。
他にもいっぱいあるんだけど、サザエさん*8はとにかく大人の象徴としてのタバコというのを、カツオたちの世代を除くほぼ全ての男性登場人物が嗜んでいる。一家団欒シーンで波平が一服している姿は特に珍しくなかった*9


ムーミンですぐに頭に浮かぶ喫煙者といえば、ムーミンパパとスナフキン。僕が子供の頃に見たムーミン*10では、ムーミンパパはパイプをただ咥えているだけではなくて、タンパーを使ってタバコを詰めたり、ピックで灰を掻き出したり、といったパイプ喫煙の仕草が割と正確にアニメ化されていた気がする。
細長いパイプ=チャーチワーデンを咥えるスナフキンに至っては、名前の由来がタバコだったりするらしい。あの「スナフキン」というのは英語版での意訳された名前で、スナフ=スナッフ(Snuff)=嗅ぎ煙草*11のこと。スウェーデン語の原典では「スヌス・ムムリク(嗅ぎタバコを吸う男)」で、このスヌス=スヌース(Snus)は、もちろん嗅ぎ煙草のこと。
てことは、原典ではあのチャーチワーデンではなくて鼻から粉をスンスンと吸うスナフキンが描かれてたんだろかw


サザエさんにあっても、ムーミンにあっても、いずれも「タバコを吸う人物」は、カツオやワカメ、ムーミンやノンノから見て、
【子供とは違う大人】
【年齢・秩序の序列の上位にある先行者
【何らかの経験を子供達より多く積んでいるアドバイザー】

といった役柄を与えられている。
彼らは子供達から見て尊敬・畏敬の対象であり、彼らが嗜むものの幾つか(そこにタバコも含まれる)を、子供達に対して禁止/制限することを命令する立場にある。
親、または親族ではない大人が、社会の序列の中で明確に子供の上位に立っていて、それを象徴する記号がタバコであったわけだ。


また、タバコ喫煙が大人へのイニシエーションとして描かれるケースもある。
子供が大人を真似て吸ってみて咳き込むシーンは、「おまえにはまだ早い=大人ではない=序列の下位であることを自覚させる」というものだし、子供が成長して大人になったことを印象づけるシーンでは、一人前にタバコをふかす仕草をさせてみたり、とか。
はだしのゲンとか、戦後直後の混乱を描いた物語なんかを紐解くと逆に「姿も年齢も子供のままだが内面は老熟しており、大人社会に踏み入っている」ということを理解させるために、子供でありながら喫煙をする、という姿が描かれるようになる。
これがさらに下ってくると、「学生による社会への抵抗」というのが出てくる。所謂、60〜70年代の学生運動時代の類で、その主役だった大学生達の多くは成人になりたてだったが、「学生と大人」という二律背反を抱えつつも、やはり「喫煙*12」や、それよりさらに進んだものとして、大麻摂取シーンなんかが出てきたりするようになる。*13
煙草の喫煙方法と当時の大麻の喫煙方法は、いずれも「紙で巻いて火を付ける」というものだったので、そこらへんから余計に煙草の印象が「大人の象徴」ではなく、「無軌道な若者の違法行為の象徴」にすり替わって入ってしまったんじゃないか、とも思われる。
さらにそこから下って70〜80年代になると、今度はツッパリというのが出てくる。「反体制的学生運動」から、「不良・ツッパリ・ヤンキー」が台頭するようになり、ここに至って煙草は大人の権威、象徴ではなくて、「ワルガキが大人ぶるための小道具」になってしまう。*14
となると、「煙草などあるからいけないのだ」という話になってくる。


イギリス*15などでは「自分専用のパイプ」をちゃんと扱えるようになると、ようやく一人前ということになるらしい。*16
パイプは確かに火を付けるのも、火を保たすのもなんか面倒で大変で、一般的な紙巻き煙草に百円ライターで火を付けるのが、如何に楽なのかということを思い知らされる。
そこに至る「扱いにくい面倒な道具」や「面倒な作法」をこなせてこそ大人――というのが、かつての大人とそれを象徴する喫煙の関係だったんだろかなー。


オイルマッチは、久々にオイル入れてみた。
どちらもちゃんと火が付く。*17


ちゃんと火を付けられるから、僕はたぶん大人。

*1:オイルライターの燃料と同じ

*2:焚き火などで。タバコにはかなり厳しいw

*3:あんまり

*4:部品数が少ないほど故障が減る

*5:部品数が少なくなるから加工工程が減り、コストも安くなる

*6:ほとんどの場合は燃料切れ

*7:の男

*8:昔のアニメ版と、特に原作

*9:最近はまた違うらしいけど。ちなみに波平は、覚醒剤が合法だった時代のワンシーンとして「おーい母さん、ヒロポン持ってきてくれ」とフネに声を掛けて、仕事の後の一本wを打っている回などがあったらしい。実際、ヒロポンはある一時代までは非合法でもなければ、後ろめたいものですらなく、ごく普通に嗜まれていたものであったので、そのように国民的マンガでも一般家庭の娯楽として扱われていた。恐らく今出回ってる復刻版からは削除されてんじゃないかなあ、とか思う

*10:ムーミンの声を南田洋子、でなくて岸田今日子がやってた頃。

*11:火を付けず、粉末状のタバコを鼻から吸い込んで嗜むもの。日本でも合法なのだが、使ってるとアブナイお薬をやってるように見えたり、鼻の穴に色が付いたり、飯の味が変わったりする。

*12:学生運動世代だと、そこにまあ、クスリなんかも出たり入ったり

*13:このへん、学生運動世代とヒッピー世代は重なるからねえ……

*14:電子ライターの登場は1970年代なんだそうで、煙草に火を付けるのに技術がいらなくなってきたことと、いろいろ連動してるのかもしれない。

*15:の労働者階級

*16:ちなみに昔は同じパイプを連用して割るとかw、そういうのが日常だったらしい。複数のパイプをローテーションして使うように、というような作法を整備したのはかのアルフレッド・ダンヒルなんだとかなんとか

*17:炎上もしないw