雑踏で音楽を浴びる

海で海水に戯れるのは海水浴。
森でフィトンチッドを浴すのは森林浴。
ガンジス川でするのは沐浴。
イっちゃってる方々のblogや言動を遠回しに眺めるのは電波よk(ry


路上で音楽を聴くことをなんて言ったらいいのかはわからないけど、今日の僕は専ら音浴を楽しませてもらった。


先週の日曜、偶然見かけて立ち止まって聞き惚れて、その場でCDを衝動的に大人買いしてきたハイトニック。今週は最初からハイトニックを見に行くためだけに池袋に行ってみた。


今日は池袋西口で14:30くらいから始めたらしいのだが、1ステージくらいやったところで早々に追い出されてしまって、15:00過ぎくらいには東口に移ったらしい。
僕らは池袋駅西口を出たところで、イケブログ(http://blog.livedoor.jp/hitonic/archives/51150119.html)で場所をチェックしたら「場所移転」。そのまま東口に引き返したw
東口五差路あたり、先週と同じ場所を訪ねてみると、ちょうどセッティングして仕切り直しで始めようとしているところだった。
軽く挨拶すると、僕の緑頭を覚えていてくれたようだった。


ボーカル+エレアコのワタナベ君と、エレキギターのリーダーことミヤチ君の二人がハイトニック。他に、フライヤーを配りCD売買を担当するサポートスタッフが二人。PAを見る人もいたり、常連らしきリスナーがいたり……そういえば今日はビデオカメラ回してる人もいたな。


1セット(=1ステージ)は、だいたい3〜4曲で構成されていた。
ワタナベ君がエレアコで何となく一人で弾き語りを始め、その曲の途中くらいからミヤチ君がふわりと合流する。それを終えたところで、「ハイトニックです」と簡単なMC。
一曲ごとに「こんにちわ、ハイトニックです。よろしかったらフライヤーもらってくださいね」とアピール。
「MCは苦手なので歌のほうを」とはにかむワタナベ君は、歌い始めるとほんとに豹変するというか、うっとりするほどいい声だ。

1セットの3〜4曲は、販売しているCD(導入編3曲、浸透編5曲、追っ風8曲。導入編と浸透編はCD−R)の中からランダムに選ばれている様子。1セットの中に必ず「言葉」か「僕の話を聞きなさい」のどちらかが含まれているような気がした。
3〜4曲やって、10〜15分くらいで1セットで、1セットごとに10分前後ほどの休憩を挟む。連続で歌い続けると疲れてしまう、というのもあるのだろうけど、雑踏で立ち止まって聴いてくれる人が、見ず知らずの音楽を試しに聴くために許してくれる時間は、たぶん10〜15分くらい。信号待ちの間に気に留めて、信号を渡る用事をちょっと先延ばしにして聴いてくれるとか、隣りにある喫煙スペースで煙草を1〜2本吸うくらいの時間。1セットで休憩を挟むたびにお客は流れて入れ替わってしまう。だから、印象づけたい曲は必ず1セットごとに入れるようにしているのだろうと思う。
休憩に入ると、立ち止まって聴いていた人々も、それぞれの用事を思い出して散っていく。休憩の合間にCDを売ったり、サインを入れたり、記念写真を撮ったり撮られたり、立ち話をしたり、とサービスに忙しく、あまり休めているようにも見えない。
また、あまり長く人垣を作ると、歩道の通行の邪魔とばかりに警察に目を付けられてしまうから、適度に休憩を入れることで人垣を崩し、そのあたりにも配慮しているのかもしれない。


彼らの音楽は、路上の音楽――というより、雑踏がよく似合う音楽であるように思えた。今日は天気もよく、しかしちょっと肌寒いくらい。街路樹の緑と、道路を行き交う自動車の騒音、時折サイレンをならしていく救急車、路頭の携帯電話屋の呼び込みの声、楽しそうに嬌声を上げて通りすぎていく人々、そういった本来なら排除すべきノイズである雑踏の騒音が、むしろほどよくハイトニックの音楽を支える重要な環境音であるかのような錯覚すら覚える。
それほどに、雑踏のざわめきが似合ってしまう。
この一週間、iPodで机の上で、そのへん歩き回りながらよく聴いた。「僕の話を聞きなさい」なんか歌えちゃうほどだ。
でも、どんなシチュエーションで聴くのがいちばん映えたかというと、これはもうやっぱりファーストコンタクトがそうだったからというだけでなく、雑踏の中に立ちつくして聴くのがいちばんしっくりきた。
演奏は時に歯切れ良く、ギターがプツッと途切れた瞬間、雑踏の中が静まりかえるような錯覚にすら陥る。たぶん、それほど集中して聴いてしまっているんだと思う。なんというか、PVの登場人物の一人、エキストラの一人になってるような気分というか。


そして、雑踏の中だからこその見所というか楽しみというのもある。
いろいろな人たちが積極的に、あるいは消極的にハイトニックの音楽に足を止めているのだが、実にいろいろな「人」がかいま見られて楽しかった。


太っちょの少年が、吸い寄せられるようにぼんやりと聞き入っていた。待ち合わせていたのか、偶然顔合わせたのか、太っちょの友人らしき少年二人が、聴き入っている太っちょに気付いて、彼の腕やバッグを引っぱった。遊びに行こうぜ、どっか行こうぜ、と誘っていたのかもしれない。太っちょは、「いやいや、待て待て。いいところなんだ、もう少し聴かせろよ」と、やせっぽちの友人が引く手を堪えて、1セット分聴いていった。いたく気に入ったのかもしれない。キミはいいセンスしてる。


背の高い白人二人組が、ハイトニックに聴き入っていた。恐らく観光じゃないかなと思う。日本語、わかるんだろうか。でも、フライヤーを手にジッと聴き入り、一人が「CDを買いたい」とスタッフに交渉しているようだった。が、どうやら小銭が足りなかったらしい。もう一人に「小銭はないか?」と声を掛け、数百円を借りてCDを手に入れた。二人は満足そうに雑踏の中に去っていった。


また一人、外国人。観光で来ているという中国人がCDを買った。「一緒に写真を撮ってくれないか」とせがむ中国人に、二人は笑顔で「okok」と応じる。彼は満足して雑踏に去っていった。


親子連れがCDを買った。いや、正確には、フライヤーを手にCDを買ったのはお母さんのほう。いつのまにか合流した娘さんと、お母さんを交えて記念撮影。「お母さん、5/11のライブはお母さんを連れてくると割引なんです。ぜひおいでください!」てなアピールしてた。


彼らのステージの背後には、喫煙スペースがある。横断歩道が変わるたびに、大量の人が押し寄せてくる。遊びに行く人、駅に向けて帰る途中の人、信号待ち、一服しにきた人、人、人。
一服していたら、ストライプのシャツを着た、年輩の外国人。国籍はちょっとわかりかねるけど、ペルシア人というよりはイタリア人とかに近いような。たぶんトルコあたりかもしれない。彼はその手に古びたコーランを持っていた。背表紙は取れ、ページの全てがすり切れていた。きっと、ずっと大切に持ち歩いてきたんだと思う。
僕の隣で煙草を吹かしていたコーランのおじさんは、カタコトの日本語で、「ワタシ、カレラ、ウタウ、1000円ハラウ」と僕に提案する。おじさんが歌いたいのかな、と思っていると、コーランのおじさんはハイトニックの二人に、おもむろに1000円札を差し出した。
「コレデ、アナタタチノ、スキナウタ、ウタッテ」というようなことを言っていたように思う。
ハイトニックは持ち歌を再開。コーランのおじさんは、それを楽しそうに聞きながらもう1本煙草を吹かす。
本当に一曲だけ聴いて、満足そうに雑踏に消えていった。


人間の音楽って改めてすげえな、と思う。
他に用事がある人の足を止める。
それを目指してきたわけではない人、興味がないはずの人を引き留める。
雑踏の騒音をSEに変える。
言葉がわからないはずの外国人すら心を止める。
ハイトニックの歌は全てストレートな日本語で、気取った英語歌詞なんてどこにもないのにだ。


路上はおもしろい。
音楽を聴いている人々を見るのが本当におもしろい。
生楽器と生歌唱の凄み。
いつか、ボカロのための音楽が路上に立つ日が来るだろうか。
路上とは言わないけど、いつかライブハウスで生演奏+ボカロというライブを見るチャンスが巡ってくるだろうか。


……くるといいな。そういう日が。






ハイトニックは、5/11に上野アメ横のDOOBIE'Sで屋内ライブとのこと。
http://www.h7.dion.ne.jp/~doobies/
腰落ち着けて聴きたいので、ライブチケットを買ってきた。



そういや、この日は「DEBUTANTE」の発売日だ。とりあえず昼間のイベントは(寄る年波でw)行けそうにないんで、こっちは大人パワーで通販予約だ!*1

*1:でも、この歳になってとらのあな通販で予約購入ちゅーのもなんかアレだ(´・ω・`)