ブレザオラと塩鯨

本日より第二段階。
絶賛水分抽出中。
数日前の日記でも書いたけど、日本には「保存が利かないものは早く食べる」という生鮮食文化がある。もちろん、日本にも塩漬け・乾燥させて保存する発酵保存食文化があるわけなのだが、それは魚介に応用されたモノが多く、肉食文化の色が薄い日本では、肉類への応用が行われるようになったのは、やはり明冶以降なのだろうなと思う。その意味では、肉類加工技術は、やはり肉食文化圏である欧州、中国大陸などのほうが、進化発展を重ねていて、あちらの気候風土にも似合ってよく考えられたものが多いなあ、と思う。


ブレザオラ(牛肉の生ハム、或いは牛肉の半生干し肉)はあれからもいろいろ調べているのだけれど、やはり謎が多い食材。
まずブレザオラの味については「独特の風味」「一度食べたら忘れられない」「好きずきがあるかも」「病みつきになる」などなど。こういう表現をされる食べ物と言えば、日本ではくさや、東南アジアに行くとドリアン、欧州ではブルーチーズなどなど、「臭い食いモノ」を称賛するための形容詞として使われることが多い。そのへんが一抹の不安というか……ブルーチーズもドリアンもくさやも苦手なのだが……orz
製品として売ってるショップはないかと調べてみているのだが、楽天Yahoo!ともに、まったくヒットしない。楽天はひとつだけヒットしたが、それそのものを売ってるわけではなく、「そういうのも作ってる工場が作った別の商品」の紹介ページだった。
楽天Yahoo!以外では「国産サーロインを使ったブレザオラ」というのが売り切れではあるものの扱われていたが、ブレザオラというのは脂肪分がほとんどない赤身肉で作られるものらしいので、サシがたっぷり入ったサーロインで作るというのは、きっと何かの誤解か間違いであろうと思われる。
後はイタメシ通が、どこそこのイタメシ屋で食べたブレザオラは美味しかっただの、イタリアに旅行してくったブレザオラはうまかっただの、そういう類の情報しか出てこない。作り方もほとんどない。*1
脱水シートを使わないで熟成させる方法を、幾つかのイタメシ屋さんが実践している。本場で修業したシェフがやってる方法なので、おそらくこれが正しいのだろうなと思う反面、「数カ月熟成」「表面にカビが付く」などの説明や写真を見ると、「カビが生えていいもの」なのかどうかが悩ましい。カビつっても、青カビ黒カビいろいろあるわけで、青カビ生えちゃってもいいものなんだろうか、とか。
一般的な日本人の感覚だと「黴が生えたらもう食えないもの」という感じだけど、例えば鰹節などは蒸したなまり節を燻蒸し、カツオブシカビというような感じの菌を意図的にカビ付けし、なまり節の水分を徹底的に搾り取って乾燥させて作る。
欧州の食べ物であるチーズなどでは、ゴルゴンゾラやカマンベール、ブリのように青・白のカビを表面に生やして、水分を抜いたり或いは内部を発酵熟成させたりするものもある。*2
ブレザオラの表面にカビが生えてもokなのか、むしろ水分抽出や発酵の目的でカビを生やすべきなのか、その謎が解けないというか……。
脱水シートを使って水分抽出時間を圧縮する場合は、当然表面にカビは生えない。
うーん。謎。
このままでは出来上がったモノが、「うまくできた」のか「失敗してる」のかの判断もつかん(^^;)
まあ、プロシュートパンチェッタ*3は何べんも作っていて旨くできているので、食材が豚から牛に変わっただけだとするなら、同じ方法でいいはず。たぶん。
自信ないけど、挑戦することに意義があるんだよ!!!! たぶん!!!
旨かったらもうけもんだよ!!




そういえば、鯨肉にも「塩鯨」という食い方がある。
冷蔵・冷凍技術が不十分だった時代、近海捕鯨によって手に入れられた鯨肉のどでかいブロックは、塩漬けして保存されていた。沖縄料理のスーチカなども豚肉を保存のために塩漬けしたところから生み出された料理だが、塩漬けされた塩鯨も、そうした「水分抽出して肉塊を保存するための保存法」の一環だったんじゃないかなと思う。
その時代までの一般的な日本人が食べるタンパク源である魚介類は、そもそもそこまで大きなものではなかっただろうし、小分けしてとっとと食ってしまっていただろうし。*4
塩鯨は、「塩の塊か!」というほど大量の塩を鯨肉にまぶしつけて保存し、これを削ぎ切りしてそのまま焼き、表面から塩が析出してきたのを湯で洗って食う。洗わない場合は塩食ってるのと同じで大変しょっぱく、血圧が上がるw
塩鯨を焼いて鍋に入れる料理というのも以前はあったらしい。今もあるのかもしれないが、冷凍冷蔵技術が進歩し、なおかつモラトリアムによって鯨肉そのものの水揚げが激減してからは、貴重品となった鯨肉を塩の塊にして食べる塩鯨は衰退し、「貴重品はできれば刺身で食べる」という日本人のいつものクセwによって、刺身で供されるようになってきた気がする。
もちろん、ハリハリ鍋とか、クジラベーコンとか、大和煮とか、おでん(コロ)とか、そういうメジャーな食い方は今も受け継がれているし、「鯨ジャーキー」とか、タレもあったりはするわけなんだけど、塩鯨は消え去りつつあるような気がする。


保存手段が変わった、供給量が変わった、味わい方の好みが時代の変遷によって変わったなどなどいろいろ理由はあるんだろうけど、塩漬けにされた鯨肉の肉塊を使った料理というのは、実は昔はもっといろいろあったんじゃないのかな、と思わないでもない。
前にイルカ肉について調べたとき、イギリス人貴族の間には「イルカの血のプディング」という料理があったらしいことに辿り着いたのだが、調理法も具体的な完成型も、詳しいことはわからなかった。プディング*5は確かにイギリス人の好きな食い物のひとつだが、動物愛護の観点から捕鯨をタブー視している今のイギリス人に、イルカどころか鯨を使った料理は手を出せまいと思う。アイスランドノルウェーに、どういった鯨料理があるのかは凄く気になるところ。


……。
和欧折衷ということで、「鯨肉で作るブレザオラ」とかそういうのはどうだろう。ブレザオラは牛肉・馬肉の他に、鹿肉、近年では鮪の赤身で作られるものが増えているそうで、「鮪のブレザオラ」というのは下調べのときにも何度も遭遇したが、「牛肉で食いたい」というのがあったので、敢えて候補から外した。
が、鯨肉といえば脂肪分少ない赤身肉だし*6、本当は鯨肉こそブレザオラに適した肉材なんじゃないのか? と思う。
100gで800円も1000円もするような現状では、鯨肉をバクチのような保存食にするのはバチが当たりそうでなかなかできないんだけど、今回は1kg3000円弱。100g、300円くらい。素性も確かなミンククジラ。
やってみようかなあ、とか思う。


欧州の食肉文化に敬意を表して、鯨肉ブレザオラ。
どんなもんだろう。

*1:いくつか作り方を書いたページも見つけたのだが、ブレザオラそのものに対する情報の少なさから、どうも違うものをブレザオラと言ってるケースと、ブレザオラらしきものなんだけどブレザオラとは言ってないケースなどが混在orz

*2:発酵のためにダニをまぶすwミモレットのようなものもあるわけなのだが、できあがったチーズは美味しかったりするし。

*3:……うわー、すげえ間違いw プロシュートはそうそうできませんが、パンチェッタは簡単に作れるw

*4:江戸時代といっても、時代も地域も広いので、「江戸時代では」と一言でまとめるのは危険なのだが、いっぱんに江戸・都市部では魚は貴重品で、毎日食膳に上がるようなものではなかったらしい。めでたい宴席で「尾頭付き」が出るのはタイに限った話ではなく、一匹丸ごとの魚というのは貴重品だったことの名残らしい。

*5:我々が想像する「プリン」とはだいぶ違う。

*6:鯨の脂肪は極低温の深海や北極・南極海で体温を維持できるよう、体表を多うように分厚く発達している。その脂肪分を使って作るのがクジラベーコンだが、最近はミンクやマッコウなどの脂肪分は稀少品なので、今はツチクジラやイルカの脂肪が多く使われているらしい。もちろん、近海鯨類のツチクジラ(7〜10m程度の歯鯨類)やイルカは、セミクジラ・ヒゲクジラ系のどでかい鯨の分厚い脂肪とは比べものにならないほど薄いので、完成したものを斜めにそぎ切りすることで、大きさと厚みを表現しているのだという。イルカ食愛好者としては、イルカはいちばん外側の皮がいちばん美味しいことを添えておくw